動物において、セリン、スレオニン、チロシンのリン酸化だけでなく、ヒスチジンのリン酸化も存在することが分かっているが、その生理的意義はよく分かっていない。申請者は、線虫C.elegansを用いた遺伝学的解析から、ヒスチジンリン酸化酵素NDK-1が、3量体Gタンパク質βサブユニットGPB-1の266 番目のヒスチジンをリン酸化することで、損傷した神経軸索の再生を阻害することを見出した。一方で、ヒスチジン脱リン酸化酵素PHIP-1 が、GPB-1の266番目のヒスチジンを脱リン酸化することで、正常な神経再生を誘導することも遺伝学的に示された。本年度はまず、 NDK-1およびPHIP-1が、実際にGPB-1の266番目のヒスチジンをリン酸化、脱リン酸化することを、近年新たに作製されたリン酸化ヒスチジン抗体を用いて生化学的に明らかにした。そして、CRISPR/Cas9法によってGPB-1の266番目のヒスチジンがリン酸化されないgpb-1(H266F)変異体を作製し、この変異体では、NDK-1の過剰発現、またはPHIP-1の欠損による軸索再生の低下が起きないことを見出した。さらに、PHIP-1の酵素活性が、オートファジー開始リン酸化酵素であるULKの線虫ホモログUNC-51によるリン酸化によって制御されていることも明らかにした。よってヒスチジンリン酸化による生体制御の一例として線虫の神経軸索再生があること、またヒスチジンリン酸化酵素の活性を制御する仕組みがあることを明らかにし、本研究成果を国際学術誌に論文として発表した。
|