研究課題
本研究では、生体内D-セリンを検出ターゲットとした研究を通じて、キラル発光プローブの設計指針を提案・確立することを目的とした。D-セリンを検出するためのプローブ分子として、可視光領域に高い発光特性を示すシクロメタレート型イリジウム(III)錯体を選択した。この錯体は、配位構造に起因したΔ体、Λ体のキラリティを有していることから立体選択的なセンシングに利用できると考えた。初年度は、D-セリンが配位可能な配位不飽和型イリジウム錯体の合成に関する研究を行った。これまでシクロメタレート型イリジウム錯体は塩素架橋二量体からの合成手法によりすべて6配位構造として報告されている。まず、有機配位子の置換基を工夫し、これまでに報告例のない配位不飽和な5配位イリジウム錯体の合成と単離に成功した。特筆すべきことに、この錯体は光学分割が可能であり、安定な光学活性体(Δ体、Λ体)を得ることができた。得られた配位不飽和型錯体について、その固体状態や溶液状態での詳細構造を各種分析手法により明らかにし、その特異性を示した。例えば、配位不飽和サイトへの溶媒分子の配位によって、電子状態の変化に伴うソルバトクロミック特性を見出した。さらに、配位不飽和型錯体と単座配位子および二座配位子との反応性を明らかにした。これまで6配位イリジウム錯体の前駆体と用いられていた塩素架橋二量体に比べて、配位不飽和型錯体は迅速かつ温和な条件で反応し、6配位イリジウム錯体を与えることが分かった。さらに、同様の反応において、光学活性な配位不飽和型錯体を用いると、立体反転を起こさず、光学活性な6配位錯体が得られることを見出した。以上の結果により、光不斉触媒や円偏光発光材料としての機能性が期待される光学活性なシクロメタレート型イリジウム錯体の新たな合成法を確立した。
翌年度、交付申請を辞退するため、記入しない。
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