合成金属錯体としてテトラフェニルポルフィリン錯体(TPP錯体)を捕捉させたヘム蛋白質HasA(TPP-HasA)を用いて、位置立体選択的な触媒反応の実現を試みた。HasAの錯体結合部位の近傍に位置するバリン残基に変異導入すると、結晶構造中で基質の配位サイトが確保された状態でTPP錯体を捕捉可能であることが明らかとなった。そこで、TPP-HasA変異体の結晶をそのまま触媒として用いたスチレンのシクロプロパン化反応を実施したものの、エナンチオ選択性は発現しなかった。この変異体の反応空間は、基質の配向を制御するためには広すぎるために選択性が発現しなかったと予想し、リシン残基への追加の変異導入を行ったところ、最大16% eeのエナンチオ選択性でスチレンのシクロプロパン化反応に成功した。X線結晶構造解析から、新たに設計したTPP-HasAの変異体は、よりタイトなパッキング構造をとっていることが明らかとなり、反応空間の制御が選択性の向上に寄与したことを支持する結果を得た。 また、他の研究室との共同研究として、ヘテロ原子を骨格に含むポルフィリン錯体(オキサポルフィリンコバルト錯体)を捕捉したHasAが緑膿菌の増殖を効果的に抑制することを明らかにした。ポルフィリンの骨格と緑膿菌の増殖抑制効果の関係性を明らかにすべく、各種測定にも意欲的に取り組んだ。 さらに、緑膿菌のヘム獲得機構を逆手に取った殺菌手法の開発に向けた一歩として、緑膿菌の内膜ヘムトランスポーター(PhuUV)の発現も試みた。当研究室で一般的に用いているバクテリアを宿主とした発現系では、PhuUVの発現は確認できなかったため、コムギ由来の無細胞発現系の利用をしたところ、PhuUVの発現に成功した。相互作用解析によって、無細胞発現系で発現したPhuUVが複合体を形成していることを強く示唆する結果も得た。
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