研究課題
昨年までに同定した新規スプライシングバリアント(EVI1+18)の機能について更に解析を進めた.EVI1+18を野生型マウスの造血幹前駆細胞で発現させ半固形培地で培養したところ、野生型EVI1を発現させた細胞に比べて有意なコロニー数の増加を認めた.これらの細胞の遺伝子発現解析では白血病の発症および進展に関わるとされる複数の遺伝子の発現変化を認めており、EVI1+18の誘導が白血病発症・進展に寄与する可能性が示された.EVI1+18における異常な6アミノ酸の挿入はDNA結合ドメインの近傍に生じていることから、EVI1+18は野生型EVI1とは異なるDNA結合能を呈するのではないかと考え、クロマチン免疫沈降の手法を用いてEVI1+18がDNAと結合している領域について網羅的に検索を行った.その結果、EVI1+18が結合している領域では白血病発症および進展に関わるとされる転写因子の結合モチーフが有意に増幅されており、EVI1+18はDNA結合能の変化を通じて新規の機能を獲得していると考えられた.また、EVI1+18の背景となる異常スプライシングに重要なシスエレメントの同定を行った.すなわち、異常スプライシングの標的となる両エクソンおよびその間のイントロンのDNA配列を模したミニジーンベクターを作成し、任意の変異を導入したものをヒト血液細胞株で発現させ、野生型EVI1およびEVI1+18の発現を評価した.その結果、異常スプライシングに必要な分枝部位ならびにスプライシングエンハンサー部位を同定した.以上の結果から、SF3B1変異と3番染色体再構成が協調して白血病の発症・進展に寄与するモデルにおいて野生型とは異なるDNA結合能をもつEVI1+18の誘導および発現亢進が病態に大きく寄与している可能性が強く示唆された.本研究については2021年9月に第83回日本血液学会で口演発表を行った.
2: おおむね順調に進展している
EVI1+18に対するクロマチン免疫沈降については、当初の予定ではマウスの造血幹前駆細胞や白血病細胞株を用いて実施する予定だったが、条件検討および予備実験を兼ねて行った293T細胞を用いた実験で非常に興味深い結果が得られたために、そちらの解析までで年度を終えた.またヒトAML患者検体の解析についてはシングルセル解析ではなくバルクでのデータで代用することとした.一方で、当初の予定に記載した内容の他に、マウスの造血幹前駆細胞においても、SF3B1変異体の存在下でヒトinv(3)配列からEVI1+18が誘導されることを明らかにしたり、3番染色体再構成を伴う骨髄性腫瘍症例における主要な遺伝子変異の合併頻度や各変異のアリル頻度について細かく解析したレジストリの作成を行い、AML全症例に比べ3番染色体再構成を有するAML症例ではSF3B1変異の頻度が有意に高いことに関して過去にない症例数でのより統計学的価値の高いデータが得られたこともあり、総じていえば順調に進展していると評価している.
組織特異的な変化を評価するため、マウスの初代細胞またはヒト白血病細胞株を用いたEVI1+18に対する抗体でのクロマチン免疫沈降を行う必要がある.また、SF3B1変異はいくつかのホットスポットが知られているので、そうした変異の箇所の違いによってEVI1+18誘導の程度が異なるのか確認したい.また、EVI1+18誘導に必要なシスエレメント配列に変異を導入した際の細胞の表現形質や薬剤耐性の変化についても評価する予定である.加えて、健常人でシスエレメント付近に存在する塩基レベルでの多型がEVI1+18誘導に影響するのかを新たにミニジーンを作成して検証したい.こうした結果を追加したうえで原著論文を執筆し、信頼性の高いジャーナルへの投稿を行いたい.
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