研究実績の概要 |
前年度に引き続きEVI1高発現とSF3B1変異の協調、特にSF3B1変異の存在下に特異的なEVI1新規スプライシングバリアント(EVI1+18)に着目して解析を進めた.第一にEVI1再構成に加えてSF3B1変異を伴うまたは伴わない急性骨髄性白血病細胞株と抗EVI1抗体を用いたゲノム上でEVI1が結合する領域の網羅的解析(ChIP-seq)を行った.非血液細胞で施行した結果と同様に、両異常を合併する細胞下部で選択的にみられる結合領域には白血病発症に関連するとされる複数の遺伝子のプロモータ領域が含まれ、EVI1+18が新規のDNA結合能を獲得している可能性が示された.第二に、ヒト骨髄性腫瘍におけるSF3B1変異の複数のホットスポット(K666,K700,G740)をそれぞれヒト血液細胞株またはマウス造血幹前駆細胞で発現させ、いずれの変異においてもEVI1+18が誘導されることを確認した.第三に、スプライシングによって除去されたラリアット構造のイントロンの配列決定や改変したミニジーンを用いたスプライシング解析を通じて、SF3B1変異によるスプライシング異常が生じる際に当該イントロンで利用される潜在的な分枝部位が複数存在することや、健常人から同定されている当該イントロンの一塩基置換の中にもEVI1+18の誘導効率に影響しうるものが存在することを新たに明らかとした.第四に、SF3B1変異を伴うAMLに対して高い治療効果が報告されているindisulamをin vitroで作用させたところ、やはり両異常を合併する細胞株ではSF3B1変異を伴わないEVI1再構成陽性AML細胞株に比べて高い感受性を示した.前年度までの内容も踏まえた本研究成果は、血液学を専門に扱う学術誌の中でも信頼性の高い学術誌の一つであるBlood誌へ2023年8月に原著論文として掲載された.
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