研究課題/領域番号 |
21J15671
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
生駒 忠大 京都大学, アジア・アフリカ地域研究研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 有機農業 / 農業普及 / 参加型開発 / 実践型研究 / 地域振興 / 大学地域連携 / 古民家再生 |
研究実績の概要 |
本研究は、ブータン東部において、大学・地方行政・農民グループ参加型の実践型地域研究によって、ブータンの有機農業普及政策が現場でどのように行われているかを明らかにしながら、大学-地域(行政含む)連携による有機野菜栽培普及モデルを作り上げると同時に、農村課題解決を目指す実践型地域研究像として提示することを目指している。 本年度は新型コロナウイルスの感染拡大に伴い現地渡航が実現しなかった。よって、これまでの修士論文研究の整理と文献調査に加え、国内事例の実地調査に重点的に取り組むこととなった。研究実績は以下の点に集約される。 第一に、博士前期課程に取り組んだフィリピンにおける有機農業普及に関する実践型研究の成果を改めて分析し整理した上で、論文として『アジア・アフリカ地域研究』に投稿した(2022年9月掲載予定)。当該の研究は、本研究に向けたいわば発想の土台とも言える要素を帯びており、博士論文研究の中で重要な位置にある。ブータンにおける研究に直結する成果と考える。 第二に、行政主導型の有機農業普及が展開されたことで知られる宮崎県綾町において計4回、156日間の滞在型フィールドワークを実施し、当地域における農業普及と地域社会の諸相を調査した。方法は、存在する先行研究の調査及び当該地域における資料調査、農園における参与観察、聞き取り調査に依拠する。本調査の成果は、第22回日本有機農業学会にて口頭発表し、執筆中である投稿論文に資する有意義な議論を生んだ。また、同町における有志主催、町後援事業である「第25回照葉樹林文化シンポジウム」にてパネリストとして登壇し報告もしている。 以上に加えて、研究成果のアウトリーチ活動として3大学において招待講演を行い、アジア・アフリカ農業研究会にて2度報告を行なった。さらに、綾町における地域おこし活動の一翼を担う古民家再生事業にも参加し一定の完成に至った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、本研究の対象国ブータンにおけるフィールドワークの実施には至っていない。そのため、国内における研究へと変更を余儀なくされ、類似事例として挙げられる宮崎県綾町に着目することにした。 綾町における研究は進展し、来年度本格的に始動するブータンでの研究に示唆を与える結果を得られている。さらに、本調査は当該地域の有機農業と地域づくりを焦点化した先行研究の蓄積に昨今の概況を追加する意味を伴うものとなった。 宮崎県綾町は、行政がユニークな地域づくりを実践する自治体として全国に他に類を見ず、同町を対象にした研究は1990年代から2000年代前半にかけてみられる。それらの研究では、綾町の有機農業の推進者はあくまでも行政であるという通説を保持していた。 しかし本調査を通して、近年、地域の有機農業振興における行政の影響力は相対的に弱化し、むしろ取引先と有利な農産物の取引を行うために有機農家が農協から分離し自主的に組織化するという事例が見られている。また、宅配や直売に加えて、農業体験を売り出したり、ネット販売に力を入れたりなど、農業経営戦略の多様化が多様化が進行していることが明らかとなった。こうした、有機農業振興の主体が官から民へ移動しつつある動きは、例えばまちづくりのボランティアネットワークの形成等の非農業部門でも散見され、綾町の地域づくり全体に言える現象である。 さらに、本調査では先行研究が着目していなかった綾町に元来存在した社会文化的な土壌を参与観察から検討することを通して、綾町でなぜ行政主導型の地域づくりが一定の「成功」に結びついたのかという点まで考察の幅を広げることができている。
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今後の研究の推進方策 |
今後も引き続き新型コロナウイルスの情勢の変化に応じた方法で研究を進めていくが、現在では以下の要領で研究を遂行する計画である。 外務省が定める感染危険情報レベルの緩和及び所属先研究科の承諾をもって、2022年4月下旬には感染症対策を十分に講じた上でブータンへ渡航し、5月上旬には本研究の主要対象地域である東部タシガン県・バルツァム郡に入り研究を開始する。具体的には、ブータン王立大学シェラブツェ校に研究助手として所属し、地域づくりに実践的に取り組むことを目的に設置された同校内研究センターGNH-Community Engagement Centerに関係する教員や学生と以下の調査活動で協働する。 (1)バルツァム郡住民に対する悉皆世帯調査を行い、同地域の社会状況の概況を把握する。(2)同郡で結成された農民グループメンバーの農業実践に参与し、在来の農法や作物に関するデータを収集する。(3)農業普及局による有機農業普及事業の実態を調査する。(4)農産物の追跡調査、市場調査を実施する。(5)PLAを方法論に、農民と学生の参加による農業課題を分析し解決方策に取り組む。 本年度中に(4)まで取り組むことを目標に、当該の地域には長期(1年半を予定)滞在する。調査を継続しながら、2023年冬の提出を目標に博士論文の執筆を開始する。 渡航が叶わず国内で待機を余儀なくされる場合は、約1年間にわたる綾町における研究の成果を整理し有機農業研究に論文を投稿しつつ、国内からの文献調査や統計資料分析に取り組む。
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