重力崩壊の末にブラックホール(BH)が形成される過程で自由場の量子論を考えると、重力の強いBH近傍から熱分布に従う粒子生成が起きることが知られている。この熱輻射を得るためには通常BHの持つ事象の地平面の存在が仮定されるが、これは必要条件ではないため、重力崩壊している物体が将来BHにならないとしても熱輻射を生じうる可能性がこれまで示唆されてきた。そこで、我々は実際に地平面がない時空を構成し、熱輻射を生じることを具体的に示してきた。その中で特に重力崩壊中に生じる粒子生成は、地平面がなくとも熱輻射を生じる典型例であり、最終的にコンパクト天体が形成される場合を考えると、生成粒子のエネルギー流束に特徴的なピークが現れることが知られている。そのため、ピークが得られればその時点では地平面のないコンパクトな天体が形成されていることがわかる。 一方でBHもしくはコンパクト天体の形成に関わらず重力崩壊を伴う場合は熱輻射を生じるため、重力崩壊は曲がった空間で熱輻射を生じる本質的な部分である可能性があった。しかし、必ずしもそうとは限らないことが本年度の我々の研究によって明らかになった。つまり、重力崩壊を伴わない場合であっても熱輻射を生じる例があることを具体的に構成して示すことができた。我々の構成した例では、星の表面は静的で重力崩壊を伴わないが、星の内部にある物質が変化にすることにより熱輻射を生じるという機構になっている。この研究により、曲がった空間における熱輻射はBHなどの地平面を持つ時空に特有な現象ではないことが改めて明らかになった。
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