研究課題/領域番号 |
21J15685
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
松本 慎平 京都大学, 医学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 膵がん / KRAS / がんワクチン療法 / 抗KRAS抗体 |
研究実績の概要 |
膵がんにおける変異KRAS(KRAS G12D)をターゲットとしたワクチン療法の開発を目的として研究を進めてきた。疾患モデルマウスとして腫瘍皮下移植モデル/遺伝子改変モデルを用い、ワクチン形態としてペプチド/DNA(プラスミド)/タンパクを用いて、投与方法として皮下/筋肉内/免疫組織内注射を施行した。当初、特にDNAワクチンの免疫組織内注射群にて、抗KRAS抗体価が高い傾向と、皮下腫瘍移植モデルにて腫瘍増大が緩徐な傾向を認めた。変異KRASに対するより強い免疫応答が誘導されることが示唆されたが、検体数を増やして検討すると腫瘍抑制効果に有意な差を認めないことが分かった。その後、KRASタンパクワクチンを施行したところ、ペプチド/DNAワクチンに比して高い抗KRAS抗体価を認め、強い免疫誘導が示唆された。さらに興味深いことに、KRAS G12Dタンパクワクチン群よりもKRAS WT群において、腫瘍増大が抑制されている傾向を認めた。今後、KRAS WTタンパクワクチンが抗腫瘍効果を示す機序を検討していく。また、KRAS G12Dタンパクワクチン群において、腫瘍増大速度が二極化する傾向を認めたことから、抗KRAS抗体によるADE(抗体依存性増強)の可能性を考慮し、抗KRAS G12D抗体の抗腫瘍効果を評価することとした。KRAS G12Dタンパクを免疫したマウスの腸骨リンパ節からハイブリドーマを作製し、KRAS G12Dタンパク特異的なモノクローナル抗体を精製した。精製されたモノクローナル抗体がIgMであったため、CRISPR-Cas9システムを用いてハイブリドーマをクラススイッチさせ、抗KRAS G12DモノクローナルIgGを分泌するハイブリドーマを作製した。今後、このモノクローナル抗体の抗腫瘍効果を評価していく予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
当初、有効である可能性を見込んでいたDNA(プラスミド)ワクチンの免疫組織内注射(脾内注射)の腫瘍抑制効果を証明できなかった。DNAワクチンでは、投与したプラスミドが組織内の抗原提示細胞に取り込まれて、抗原提示細胞内でタンパク合成することで効率的に免疫誘導できるという機序が想定されているが、GFPをコードしたプラスミドの免疫組織内注射でGFPタンパクの発現を認めず、想定される機序も立証できなかった。 タンパクワクチンにおいて誘導される抗KRAS抗体価も高く、強い免疫誘導が示唆される。しかしタンパクワクチンも、当初想定していたKRAS G12D群ではなくKRAS WT群で腫瘍抑制傾向を認め、評価に難渋している。免疫染色では炎症細胞浸潤に差は認められない。またワクチンの腫瘍抑制効果が弱く、抗PD-1抗体併用やワクチン投与量増量などを行ったが、腫瘍抑制効果の向上には至っていない。 抗KRAS抗体の腫瘍抑制効果やdrug deliveryとしての可能性を評価するために、抗KRAS G12DモノクローナルIgGを分泌するハイブリドーマを作製した。しかしハイブリドーマをIgMからIgGにクラススイッチさせたことで、抗体のaffinityが低下した。作成した抗体がKRAS G12D特異的に結合することをELISAでは示せているが、細胞蛍光免疫染色では示せていない。またこの抗体によるKRAS阻害作用についても評価を試みているが、ELISAや細胞増殖試験などでは示せていない。 上記のように、当初予定していた計画通りに進んでいない部分もあるが、その過程で出てきた結果からモノクローナル抗体作製という計画を立案し、新しい進捗をみせている。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究方針としては、 ①KRAS WTタンパクワクチンによる腫瘍抑制の機序を解析する。 ②KRASタンパクワクチンの抗腫瘍効果の向上を図る。免疫チェックポイント遺伝子ノックアウトマウスに対する、腫瘍皮下移植・ワクチン投与による評価を予定している。 ③作成した抗KRAS G12Dモノクローナル抗体の機能を評価する。膵がんモデルマウス(腫瘍皮下移植モデル、遺伝子改変モデル)にこの抗体を投与し腫瘍抑制効果の有無を評価する。また、この抗体を蛍光標識し、in vivoイメージングで腫瘍への集積の有無も評価する。 モノクローナル抗体が腫瘍に集積することが確認できれば、抗体に放射線同位元素や薬剤を結合させて、抗腫瘍効果を評価する。
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