研究課題/領域番号 |
21J15693
|
研究機関 | 名古屋大学 |
研究代表者 |
坂野 文香 名古屋大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
|
キーワード | mRNA / 完全化学合成 / mRNA医薬 / 核酸医薬 / キャップ構造 / ライゲーション |
研究実績の概要 |
これまでに翻訳可能なmRNAの完全化学合成は達成されていない。しかしながら、完全化学合成の方法論が開発できれば、修飾核酸を適切な位置に導入したmRNAの精密合成が可能になり、近年注目を集めているmRNA医薬等への応用に大きな貢献ができると期待される。 mRNAの化学合成法を達成するために、mRNAのキャップ構造を化学反応で直接導入する「化学的キャップ化法」、および 修飾核酸の精密導入を実現するための「RNA鎖の連結技術」の確立を目指した。本年度は「化学的キャップ化法」の確立に注力した。 これまでキャップ構造の導入では、酵素反応法が用いられてきた。これはRNA化学合成における最終ステップの塩基性脱保護条件でキャップ構造が分解してしまうためである。そこで、RNA鎖の化学合成後にキャップ構造をポスト導入するために、容易に調製できる5’モノリン酸RNAに対して、7-メチルグアノシンジリン酸活性化体(以下、キャップ化剤)を用いることを考案した。実際にキャップ化剤を合成し、適切な脱離基や金属塩などの条件検討を行うことで、高収率な新規キャップ化反応を確立した。 またキャップ化剤に、簡便な精製とキャップ化効率の定量化を目的とした精製タグ分子を修飾した。合成した精製タグ修飾キャップ化剤を用いて、5’モノリン酸化RNAとのキャップ化反応を行った。キャップ化反応では、反応温度、反応時間、活性化剤などの検討を行い、高効率な反応条件を決定した。また精製タグを利用して、逆相HPLCにて分取精製後、光照射することでキャップ化RNAを高純度で得ることに成功した。 今後は、「RNA鎖の連結技術」の開発に取り組み、確立された「化学的キャップ化法」と組み合わせることで、mRNAの完全化学合成を行う。修飾核酸を導入したmRNAを合成・評価することで、安定性と翻訳効率について構造活性相関の情報を得る。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「新規化学的キャップ化法」と「RNA鎖の連結技術」を開発することで、mRNAの完全化学合成を目指した。本年度は、「新規化学的キャップ化法」の開発に注力し、独自に開発する7-メチルグアノシンジリン酸活性化体を用いることで、長鎖RNAへの直接的化学修飾を試みた。またキャップ化効率の定量化と簡便な精製を目的とした、精製タグを導入したキャップ化剤(以下、精製タグ修飾キャップ化剤)の合成を行った。当初のニトロベンジル基をO6位に修飾した精製タグ修飾キャップ化剤を合成したが、塩基性条件下でグアニン塩基が開環し、翻訳活性を失ってしまうことが判明した。そのため、ニトロベンジル基をN2位修飾へ修飾する分子設計に変更した。改めて合成した精製タグ修飾キャップ化剤を用いて、5’モノリン酸化RNAとのキャップ化反応を行った。キャップ化反応では、反応温度、反応時間、活性化剤などの検討を行い、高効率な反応条件を決定した。また精製タグを利用して、逆相HPLCにて分取精製後、光照射することでキャップ化RNAを高純度で得ることに成功した。
|
今後の研究の推進方策 |
今後は「新規化学的キャップ化法」の開発に注力する。RNA鎖連結反応の条件検討を行うために、核酸自動合成機により5’チオリン酸修飾RNAを得る。このRNA鎖に対して、種々の求電子剤を作用させ求電子的チオリン酸修飾RNAを合成し、相手鎖と鋳型DNA上で化学的ライゲーションを行う。アリール系やアシル系の活性化剤やDMF、DMSO等の高極性反応溶媒の検討を進めて、高効率な連結反応を確立する。 上記の化学的キャップ化法とRNA鎖連結技術の確立により、長鎖mRNAの精密合成が可能となるため、より長いタンパク質配列をコードしたmRNAを合成し、発現評価を行う。具体的には、GFPをコードする天然型のmRNAと、生体内安定性が向上すると期待される修飾核酸 (チオリン酸修飾および2’-OMe修飾) を導入したmRNAを合成し、安定性と翻訳効率の評価から、mRNAの構造活性相関データを得る。
|