研究課題
本年度は、環境の変化が個体に与える行動変化を明らかにするため、豊かな環境から通常環境に移行する「ネガティブな環境変化」がマウスの行動に与える影響を評価した。これまで、環境が個体に与える影響を評価するための動物実験では、おもちゃ等を与えて飼育する「豊か」な環境や、床敷き・水・餌のみで成る「通常」環境というような一定の環境に動物を曝露し続けてその影響を測定してきた。しかし、我々が実際に世界の中で直面する状況は、刻々と変化する動的なものである。そのような状況下での我々の行動変容は、一定の環境しか考慮していない実験パラダイムでは説明が難しい。本年度は、マウスを、「豊か」な環境で離乳直後からyoung adult期まで飼育したあと、「通常」の飼育環境に突然移行し、この「ネガティブな環境変化」がマウスの行動に与える影響を評価した。結果、豊かな環境で育ったマウスが豊かな環境を失うことは、個体間相互作用の変化や行動パターンの変化を引き起こすことを見出した。これは、豊かな環境を突然失うことはヒトのみならずマウスでもストレッサーであることを示唆する。本成果は、環境変化に対応しようとする行動とそのメカニズムを、侵襲的な手法が可能である動物モデルを用いて検討する一歩となる。なお、本成果はEuropean Journal of Neuroscience誌に論文発表を行った (Sukegawa, 2022)。さらに、ストレス反応に関するRNA修飾関連遺伝子改変マウスの行動特徴を調べるため、「豊か」、「通常」それぞれの環境で育った遺伝子改変マウスに対して感覚・運動から記憶に至るまで様々な領域の行動試験を継続中である。
2: おおむね順調に進展している
環境変化の影響について順調に検討を重ね、論文発表を行った。遺伝子改変マウスに対する実験も順調に継続中であり、次年度中には一定の成果が期待される。
前年度に引き続き、RNA修飾関連遺伝子改変マウスに対して外界の環境が与える影響を明らかにする。外界の環境を操作する中で行動試験を行い、個体の周囲環境に対する行動様式の変化を検討する。さらに、これまでの成果についてまとめる。研究成果を学術論文として投稿することを目指す。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (4件)
European Journal of Neuroscience
巻: 55 ページ: 1118~1140
10.1111/ejn.15602