研究課題
本研究では、単一粒子誘発固相重合法(STLiP 法)を利用して有機ナノ材料の構築を進めている。高エネルギーを有する“荷電粒子一つ”の直進する飛跡を“最小の反応場”として捉え、単一粒子が化学反応を誘起することで理論上最も小さい領域にエネルギーが集約され、低分子化合物の固相重合を実現し、微細加工・材料形成を可能にしている。フラーレン薄膜に対してサイクロトロンで加速した450 MeVのXe粒子を照射した後、高真空下での加熱により未照射部位を昇華させるDry Processで処理することで、自立したナノワイヤの単離に成功した。照射粒子の数密度、すなわち形成されるナノワイヤ数密度を変えながらナノワイヤの垂直配向性を調べたところ、低い数密度(1e9~1e10 ions/cm^-2)ではDry Processで処理した際でも垂直ナノワイヤは確認できなかった。このことから高密度でナノワイヤを形成することでナノワイヤ同士が支え合うような相互作用が必要であることが分かった。また、フラーレン分子のほか、10を超える有機材料においても同様に自立ナノワイヤの形成が確認され、ヘテロ積層薄膜(フラーレンおよびフタロシアニン分子)からナノワイヤを形成することでヘテロ界面をもつ連結ナノワイヤの作製にも成功している。さらには、自立ナノワイヤに対してπ共役系モノマーを電解重合させることで同軸に成長したヘテロ接合ナノワイヤが形成されるなど、STLiP法およびDry Processが非常に汎用的な微細加工法であることが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
従来に引き続き、高崎量子応用研究所サイクロトロンおよびタンデム加速器を利用することで本研究は順調に進展しているが、それら加速器の使用時間が本年度から減少したこともあり当初の計画以上に進展させるまでには至らなかった。ただ、ナノ構造体形成可能な材料群や分子構造などの知見も蓄積されていることから、効率的にナノ材料の探索を実現することができている。また、本年度において高機能材料を期待できる垂直配向ナノワイヤの確立に成功したことから、研究終了に向けてナノ材料としての応用・実用化に移行していくとが可能であると判断している。
次年度においても、高崎量子応用研究所の加速器、さらにはドイツGSIの線形加速器を利用することができるため、各イオンビームによるナノ構造体形成を進めていく。形成手法に関する知見は十分に集められていることから、次年度からは本格的にナノ材料としての応用、特にナノ材料の持つ電気伝導特性や光学特性などを活用したセンシング材料の開発を予定している。高強度かつダイナミックレンジの大きい検出が可能な材料の設計及び合成、ナノワイヤアスペクト比の最適化などを進めていく。これまでに使用実績のあるフラーレン分子は電気伝導特性を持ちながら極めて高いナノワイヤ形成能を有することから、まずはフラーレンおよびその誘導体を使ったFETデバイスよるバイオセンシング材料の開発を進めていきたいと考えている。
すべて 2021
すべて 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (1件)
Nature Communications
巻: 12 ページ: 4025
10.1038/s41467-021-24335-x