研究課題/領域番号 |
21J15770
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
鎌田 祥輝 京都大学, 教育学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | STS教育 / 科学教育 / カリキュラム / 科学の本質 |
研究実績の概要 |
本年度の研究目的は以下の2点である。(1)科学教育研究の文脈から提起された英国のSTS教育を、技術教育の視点から捉え直すことで、技術の教育にSTS教育が果たした役割を明らかにする。(2)1990年代までのSTS教育研究が2000年代以降の英国科学教育研究に与えた影響を明らかにする。 (1)について、技術教育の側面からSTS教育への批判を展開するとともに「技術」を主題にしたSTS教育の教材開発のアドバイザーを務めたレイトン(Layton, D)の所論を検討し、英国における技術教育と科学教育の関係と論点を析出した。加えてレイトンが開発に携わったSTS教育の教材と科学教育研究者が中心に作成したSTS教育の教材のなかで、同じ題材を扱う箇所を比較検討することで両者の特質の違いを解明した。検討の結果、STS教育の教材では、技術のプロセスを体験するだけでは見えない、技術の性質を生徒に理解させることを重視していること、また、STS教育の教材であっても生徒に理解させたい内容が立場によって異なることを明らかにした。 (2)について、英国においてSTS教育を主導したソロモン(Solomon, J.)の影響を受け、2000年代初頭にシティズンシップのための科学教育として科学技術の社会問題(Socio-Scientific Issues、SSI)の本質、目標、評価方法、教授方略について検討したラトクリフ(Ratcliffe, M.)の所論や、STS教育の開発プロジェクトから影響を受けていることを明記している教材の文献収集を行った。次年度に、これらの資料を用いて研究を進めていく予定である。これらの研究以外にも、本研究課題に関連する共同研究の成果を論文や図書にまとめた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度は、論文2本が掲載されることとなった。第一に、英国のSTS教育の展開を、技術教育の視点から捉え直したものである。近年、科学と技術等を統合的に捉えるSTEM教育の議論がある。ただし、「科学技術」という用語に代表されるように、比較的親和性の高いと思われる科学教育と技術教育の間でさえ、両者の間の確執は長く続いていた。本論ではこの対立を踏まえつつ、STS教育における科学と技術をつないだ教育内容や教材の意義を探究した。 第二に、日本の学校との共同授業研究の成果をまとめたものである。研究目的にも記載したとおり、文献調査の成果を活かしながら学校との授業開発を並行して実施している。今年度は理科の単元開発に携わり、その成果と課題を論文にまとめた。 加えて、STS教育の遺産を受け継ぎながら2000年代以降に英国で展開した研究や教材開発についての文献収集を行った。次年度はこれを論文としてまとめる予定である。
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今後の研究の推進方策 |
今年度までの研究成果として、STS教育の著名なカリキュラム開発プロジェクトに着目し、歴史研究と教材研究を通してSTS教育の内実を明らかにしてきた。他方、大きく下記2つの課題が残されている。(1)2000年代以降の科学教育の展開とSTS教育の関係についての考察、(2)歴史研究を科学教育の現代的課題と結びつけてその意義を考究する。来年度は、大局的な視点からSTS教育を眺め、STS教育を科学教育の歴史に位置づける作業に重点を置いて取り組む予定である。また、引き続き学校との授業開発の共同研究にも取り組んでいく。以上を通して、市民育成のための科学教育のあり方を模索していきたい。
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