研究実績の概要 |
本研究は、STS(Science, Technology and Society)教育の歴史と展開を明らかにするなかで論点を析出し、全ての生徒が受ける市民育成のための科学教育の在り方を探究することを目的としている。本年度の研究では、これまでの研究で検討した1990年代までのSTS教育研究が、2000年代以降の科学教育研究の議論といかに接続しているのか(していないのか)を明らかにすることを目的とした。具体的には、STS教育の後続として2000年代以降に衆目を集めている “Socioscientific Issues”(SSI)(日本では「科学技術に関連した社会的問題」として知られる)の理論と実践に着目した。特に、2000年代初頭に「STS教育を乗り越える」ものとしてSSIを提起したデイナ・ザイドラーの所論に焦点を合わせ、氏のSSI研究や氏の開発したSSI駆動型カリキュラムを資料として、科学教育研究の文脈におけるSSIの意義を論じた。ザイドラーはSSIを、「STSが提供する全てを内包するより広い意味の用語であり、科学の倫理的側面、子どもの道徳的推論、生徒の感情的発達を考慮する」としている。ザイドラーが念頭に置くSTS教育は、米国で主流のSTSアプローチであり、本研究課題で着目している英国のSTS教育の議論は参照されておらず断絶していることを本論で明らかにした。また、ザイドラーの議論に対する批判のなかで表出された論点が道徳教育領域の論点と近似していることを明らかにし、ザイドラーのSSIの提案は、科学教育研究領域の議論の射程を拡張する契機であったと論じた。 加えて、文献調査の成果を生かしながら学校との共同研究による授業開発を継続して実施しており、その成果を図書にまとめている。
|