研究課題/領域番号 |
21J15792
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
磯田 珠奈子 京都大学, 理学研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | ウキクサ / 花成誘導 / 植物間コミュニケーション |
研究実績の概要 |
ウキクサ植物の一種であるWolffiella hyalinaはサリチル酸が培地に添加されたときにのみ花成誘導されると報告されてきた。本研究ではW. hyalinaの花成個体と非花成個体を共培養することで、サリチル酸がない培地であっても非花成個体が花成誘導されることを明らかにした。次に別種間でもこの花成個体による花成誘導が働くかを検証するため、ウキクサ植物の一種で短日条件で花成誘導されるLemna aequinoctialisとW. hyalinaと共培養した。共培養の結果、W. hyalinaの花成誘導が確認できた。さらに花成誘導物質が培地中に放出されているかを確かめるため、Lemna aequinoctialisを短日条件で花成誘導させ、その花成個体を培養した培地のみをW. hyalinaの培地に添加した。この実験でもW. hyalinaの花成誘導が確認された。以上の結果から、ウキクサの花成個体が何らかの花成誘導物質を培地中に放出し近傍の非花成個体の花成を誘導しているのではないかと考えられる。そしてこの花成誘導物質はウキクサ植物で属を越えて共通であることが示唆された。これまで植物の個体間コミュニケーションの研究は、空気中に放出される揮発性物質を中心に行われてきた。本研究の結果からウキクサ植物が水中で個体間コミュニケーションをしていることが明らかとなり、これは植物の個体間相互作用に関する研究をさらに進めるものである。またこの研究は植物の個体間コミュニケーションが環境に合わせてどのように進化していったかを明らかにするうえでも非常に重要な結果を示したと言える。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度はW. hyalinaの花成個体群と非花成個体群の個体群は混ざらず培地のみが行き来できるような共培養系を確立し、花成個体による非花成個体の花成誘導を明らかにすることができた。しかしこの培養系で用いたW. hyalinaの花成個体はサリチル酸入りの培地で花成誘導をしているため、サリチル酸の持ち込みによる影響が懸念される。そこで短日条件で花成誘導されるウキクサ植物の一種であるLemna aequinoctialisをW. hyalinaと共培養することで、サリチル酸の影響を考えずに花成誘導を評価できるのではないかと考えた。短日条件でこの2種の植物を共培養するとW. hyalinaの花成誘導が確認できた。また、短日条件で花成誘導されないLemna aequinoctialisと共培養してもW. hyalinaは花成誘導されなかった。この結果からW. hyalinaは外部のサリチル酸に依存せず他のウキクサの花成個体によって花成誘導されていることが実証できた。また花成個体の培地を使った実験から花成個体が何らかの花成誘導物質を培地中に放出していることが強く示唆された。
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今後の研究の推進方策 |
花成個体による非花成個体の花成誘導は、ウキクサ植物内の他種間でも起こることが本研究によって示されている。W. hyalinaの花成個体と比較してLemna aequinoctialisの花成個体はW. hyalinaの非花成個体に対する花成誘導性が高かった。そのためLemna aequinoctialisの花成個体を培養した培地には花成誘導物質が多量に含まれていると考えた。今後の実験ではこのLemna aequinoctialisの花成個体を培養した培地を使用し、花成誘導物質の特定を目標とする。はじめに花成個体を培養した培地をODSカラムによって分離し、それぞれのフラクションをW. hyalinaの非花成個体の培地に投与したときの花成誘導性を評価する。花成誘導性があったフラクションを質量分析することで花成誘導物質の特定を試みる。次に、この誘導物質が個体内に取り込まれた後の作用機序の解明を試みる。アオウキクサとW. hyalinaを共培養し、一定時間ごとにW. hyalinaをサンプリングしRNA-Seqによる遺伝子発現解析を行う。さらに、W. hyalinaはサリチル酸によっても花成誘導されることから、これらの化合物を加えたときも同じように一定時間ごとにサンプリングし遺伝子発現解析を行う。これらの解析データを比較することによってそれぞれの物質による花成誘導経路の違いを明らかにする。また、Lemna aequinoctialisのW. hyalinaに対する花成誘導性は株によって異なることがこれまでの実験で明らかとなっている。本研究では日本全国から採取したアオウキクサの花成誘導性を評価し、緯度や採取地の水田の米の品種などに依存して花成誘導性が変わるかどうか確認する。花成誘導性が大きく異なる株があればその採取地の環境などを調べ、その生態学的な意味について考察する。
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