淡水性の単子葉類であるウキクサ植物は、水面が揺れることで個体同士がぶつかり合う、または昆虫が植物上を歩き回ることで受粉する。そのため、受粉効率を上げるためには近距離の複数個体が同時に開花する必要がある。よって、ウキクサ植物には花成個体が近隣の非花成個体を花成誘導するような、個体間花成誘導コミュニケーションがあるのではないかと考えた。 ウキクサ植物の一種であるW. hyalinaは、非花成誘導条件であっても花成個体と混合培養することで花成誘導された。さらにこの他個体による花成誘導は同種間だけではなく、アオウキクサとW. hyalinaといった他種間でも有効であることがわかった。また花成個体の培養培地のみで花成誘導できることから、ウキクサの花成個体が何らかの花成誘導物質を培地中に放出することで近傍の非花成個体を花成誘導するということが明らかとなった。花成誘導物質の特定には至らなかったものの、熱処理実験やODSカラムによる分画から、低分子の熱に強い化合物ではないかと予想している。 また、日本全国から採取したアオウキクサの株を用いて花成誘導性を評価したところ、株によって花成誘導性が大きく異なることがわかった。緯度との相関は見られなかったが、花成誘導物質の放出量は同種内であっても株によって差があると考えられる。 本研究はウキクサ植物の個体間花成誘導コミュニケーションとその生態学的な意義を明らかにする上で重要性が高い。花成誘導物質が特定されれば、化合物を介した新たな植物間コミュニケーション機構が明らかとなり、植物間相互作用に関する研究をさらに進めることが期待できる。さらに本研究ではウキクサ植物が種を超えて同じ花成誘導物質を使用している可能性が示唆された。このように近縁種が同時に開花する機構が保存されているということは進化的な意義を考える上でも非常に興味深い発見である。
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