胎盤は正常な妊娠の成立、維持に重要な役割を担う内分泌臓器である。マウスなどのげっ歯類において、下垂体由来のプロラクチン(PRL)に加え、胎盤由来のプロラクチンファミリーに属するホルモン群は生殖生理に深く関連していることが知られている。しかしこれらは妊娠初期から中期についての知見であり、それに比較して出産直前にマウスPRLの分泌や機能についての研究は少ない。我々は将来的に妊娠末期のPRLの機能解析に迫るために、不足している合成・分泌制御についての情報を母体側と胎盤側から得ることを試みた。 まず妊娠末期に母体血中に分泌されるPRLの濃度をELISAにより詳細に解析した。胎盤性PRLのうちPRL3B1と母体下垂体からのPRLの分泌を4時間ごとに測定すると、PRL3B1は妊娠日齢19(G19)急激な分泌低下、下垂体性PRLは同時間帯に急激に分泌量が増加するという興味深い結果を得た。 この結果をもとに、マウスの妊娠維持と関連の強いPRL3B1の低下時期が胎盤機能の大きな変化に関連しているという仮説を建てた。PRL3B1の変化のある前後の2点のタイムポイント間で胎盤のプロテーム解析を行った。5900種のタンパク質が検出され、2点間のタンパク質の比較定量解析の結果、発現量が優位に2倍以上となったものは31種、優位に1/2倍以下となったのは7種であった。このうち胎盤PRLファミリーは22種が検出され、PRL7C1のみ発現量が優位に増加し、他は大きな変化はなかった。この結果より出産間際の胎盤におけるタンパク質のPRLの合成量には減少がみられなかったため、分泌抑制を行う何らかの機構があると考えられる。 なお発現量に優位な変化がみられた他のタンパク質は転写・翻訳に関係するものが最も多かったが、母体との内分泌によるやりとりに関係するものの変化が見られ、今後のさらなる胎盤機能の解析ターゲットになると考えている。 これらの研究成果をまとめ現在国際学術誌に投稿準備中である。
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