研究課題
これまで、腎尿細管皮質の線維芽細胞の大半がEPO産生能を有する細胞(REP細胞)であると考えられてきた。しかし、REP細胞が標識された遺伝子改変マウスの解析から、実際にEPO産生能を有するのは一部(Real-REP細胞)に限られ、多くが既にEPO産生能を喪失した細胞(Post-REP細胞)であることが明らかとなった。また、Real-REP細胞における低酸素誘導性のEPO産生は腎障害に伴って著しく抑制されるものの、薬理的なHIF活性化(PHD阻害)により一部回復可能であることが確認された。この結果から、病態低酸素環境下でのPHD異常活性化が示唆された。さらに、詳細な解析から、Real-REP細胞は低酸素および炎症に対する応答性が高く、Post-REP細胞は線維化に対する応答性が高いことが示唆された。炎症を惹起するとReal-REP細胞における炎症応答遺伝子発現が顕著に誘導され、腎障害時にはPost-REP細胞の線維化関連遺伝子の発現が著しく亢進した。続いて、Real-REP細胞のマーカーとして炎症応答に関係する細胞表面タンパク質を同定した。当該マーカーの発現は障害腎においても維持されており、障害腎におけるREP細胞を当該マーカーの発現の有無により分類したところ、線維化関連遺伝子の発現量に差を認めた。この結果は、EPO産生能に基づいて分類した際の結果と合致しており、当該マーカーがReal-REP細胞の性状解析に有用であることを示している。以上の結果から、REP細胞集団はEPO産生を含む低酸素や炎症などの環境ストレス応答を担う細胞とEPO産生能を失ったのち構造維持にはたらく細胞に分かれることが示唆された。
2: おおむね順調に進展している
当初の計画通り、単離した腎エリスロポエチン産生細胞の網羅的遺伝子発現解析を行い、腎エリスロポエチン産生細胞集団が異なった性質を有する複数の亜集団で構成されることを明らかにした。さらに、Real-REP細胞のマーカー遺伝子を同定し、そのマーカー遺伝子を用いることでReal-REP細胞集団の追跡が可能であることを確認した。線維化腎においても、同定されたマーカー遺伝子の発現する細胞は、Real-REP細胞と同様の性質を示した。以上の結果から、REP細胞集団は不均一な集団であり、その不均一性はEPO産生能のみならず腎線維化にも影響を及ぼしていることが明らかとなった。以上の成果については、論文作成中である。
Real-REP細胞からPost-REP細胞への分化およびその過程で生じるEPO産生能喪失の分子機序をREP細胞株やマウスから単離したREP細胞を用いて遺伝子発現解析およびエピゲノム解析により明らかにする。また、2021年度にEpo産生能喪失および線維化に寄与していると候補にあがった遺伝子群の機能解析にも取り組む。さらに、REP細胞株などを用いて病態環境におけるPHD異常活性化の分子基盤の探索に取り組む。
すべて 2022 2021
すべて 雑誌論文 (4件) (うち査読あり 4件、 オープンアクセス 2件) 学会発表 (2件) 図書 (1件)
Kidney Int
巻: 101(1) ページ: 92-105
10.1016/j.kint.2021.09.031.
Biochem Pharmacol
巻: 197 ページ: 114939
10.1016/j.bcp.2022.114939
EBioMedicine
巻: 64 ページ: 103209
10.1016/j.ebiom.2021.103209
STAR Protoc
巻: 2 ページ: 100826
10.1016/j.xpro.2021.100826