ホーキング輻射は,ブラックホールの事象の地平線付近で,量子的に対生成された仮想粒子が実粒子として輻射される現象で,一般相対性理論と量子力学の統一に向けてその観測が鍵となる.しかし,ホーキング輻射は宇宙背景輻射に比べ極めて弱く,観測することは困難である.そこで,実験室系で擬似的ブラックホールを創生し,それを用いてホーキング輻射の検証を行うという提案がなされている. 我々は,擬似的ホーキング輻射の実験的検証のための理論の構築に向けて,電気回路を用いた(i)ホーキング輻射に対するトンネリング・メカニズムに基づいたホーキング輻射の基礎理論の構築を行った.また,(ii)微弱なホーキング輻射を増幅のため,ブラックホール・レーザーの考案を行った. (i)擬似的ホーキング輻射 我々は,非線形キャパシタを持つLC伝送線路上のキャパシタンスを制御することによって,回路中の電磁波速度を空間的に変調し,電気回路上に擬似的にブラックホールを創生することに成功した.この回路には電圧ソリトンが存在し,ソリトン自身がブラックホールとして振る舞うことを明らかにした.そして,このブラックホールソリトンを用いて,ホーキング輻射の実験的検証に関わる物理的諸量を評価した.結果,我々が提案した擬似的ブラックホールでホーキング輻射の観測が可能であることがわかった. (ii)量子回路ブラックホール・レーザー ホーキング輻射の更なる増幅のために,ブラックホールソリトンの二つの事象の地平線が共振器として振る舞うブラックホール・レーザーの理論を電気回路系で初めて構築することに成功した.そこでは,メタマテリアルの概念を導入し,ソリトン自身が共振器として振舞うことを示した.そして,粒子・ 反粒子に対応するモードが,事象の地平線の間を反復し,非線形モード変換によりホーキング輻射が増幅されることを明らかにした.
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