研究課題
自己炎症性疾患は主に自然免疫系の異常な活性化により生じる遺伝性疾患群である。近年、細胞内タンパク輸送に関与する輸送小胞COP Iの構成サブユニットであるCOPAタンパクの遺伝子変異によって、間質性肺炎や関節炎などを呈する自己炎症性疾患、COPA症候群が報告された。また、COPA症候群では、I型インターフェロン(IFN)によって誘導される遺伝子群、ISGsの発現が亢進していることも知られている。本研究では、同疾患の遺伝子変異を導入したモデルマウスをCRISPR/Cas9により作成し、その解析を行うことで、新しい観点から同疾患の病態解析および新規治療法の開発にアプローチすることを目的とする。解析の結果、COPA変異マウスにおいて、COPA症候群の患者と類似した間質性肺炎と共に、脾細胞ではISGsの発現レベルの亢進が認められた。また、樹状細胞では、DNAセンサーSTING (Stimulator of Interferon genes) を介したI型IFN産生誘導経路が、リガンド刺激後に増強されていた。さらに、その分子基盤として、COPA変異マウスの樹状細胞では、刺激後に、STINGの局在が小胞体からゴルジ体に移行していることが明らかになった。一方で、STINGの他にTLR9やRIG-Iといった他の核酸センサーのリガンド刺激では、I型IFNの産生増強は認められなかった。その他、COPA変異マウスの脾臓T細胞では活性化メモリーT細胞が増加し、IFN-γの産生が増強していた。以上の結果から、COPA変異マウスでは、STINGシグナルの過剰な活性化と共に、T細胞の異常を来すことが明らかになった。今後このマウスの更なる解析により、COPA症候群の病態解明およびSTINGやCOPAを標的とした新しい制御剤の開発が進むことが期待される。
2: おおむね順調に進展している
CRISPR/Cas9によりCOPA変異マウスを短期間で作成し、令和2年度にはその変異マウスが間質性肺炎を発症し、変異マウスの脾臓細胞ではISGsの発現が亢進していることを明らかにした。さらに、変異マウス樹状細胞ではSTINGの局在変化とそれに伴いI型IFN産生機構が活性化していることを明らかにした。また、COPA変異マウスの脾臓T細胞では活性化メモリーT細胞が増加し、IFN-γの産生が増強していることも明らかにした。以上の観点から、本研究はおおむね順調に進展していると考えている。
COPA変異マウスの解析をさらに進めていく。具体的には、I型IFN受容体欠損マウスや、T細胞、B細胞を欠損したマウスとCOPA変異マウスを掛け合わせ、COPA症候群におけるそれらの分子や細胞の影響を明らかにしていく。さらに、その他の自己炎症性疾患のモデルマウスも作成し、並行して解析を行うことで、さまざまな自己炎症性疾患の病態を明らかにし、自己炎症性疾患全般に対する新たな治療戦略の確立を目指す。
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すべて 雑誌論文 (2件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 2件) 備考 (2件)
Arthritis & Rheumatology
巻: 73 ページ: 2105~2115
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Nature Communications
巻: 12 ページ: -
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https://www.wakayama-med.ac.jp/intro/press/r3/210628/28_seitai.html
https://www.wakayama-med.ac.jp/intro/press/r3/211207/07_menekifuzen.html