水道水原中で散発的に増殖するラフィド藻類は,消毒副生成物であるハロ酢酸(HAAs)の前駆物質を高濃度で生成するため,水道水中のHAAs濃度上昇の原因となる。この前駆物質は高分子でありながら,極めて高い親水性を有し,通常の急速ろ過プロセスでの制御は困難である。従って,従来の特性解析だけでなくHAAs前駆物質の構造的特徴を解き明かした上で,その制御戦略を策定することが必要であり,これを本研究の最終目的とした。 令和3年度は,まずラフィド藻Gonyostomum semen (G. semen)の培養条件の再検討と,大量培養手法およびHAAs前駆物質の効率的な抽出方法の開発を行った。G. semenの培養には,従来使用されてきたAF-6培地よりも,AF-6培地に含まれる栄養塩を環境水(琵琶湖水)に添加し作成した溶液の方が適していることが分かった。また,培養器を25 mL培養フラスコから300 mL三角フラスコにスケールアップしても同等に培養ができることを確認し,大量培養(20L以上)に成功した。さらに,HAAs前駆物質の抽出方法を以下の4工程に確立した: 1) 超音波による細胞の破砕,2) ろ過による細胞断片の除去,3) 限外ろ過(孔径,3 kDa)による脱塩と濃縮,4) 逆相-陽イオン交換カートリッジによる夾雑物質の除去。 その後,精製した試料を液体クロマトグラム-精密質量計 (LC-Orbitrap/MS)による測定に供し,HAAs前駆物質の構造解明を試みた。その結果,糖とフェノールが結合した複数のフェノール配糖体が検出された。フェノール配糖体の一種であるアルブチンのHAAs生成能は十分に高く,これらがHAAs前駆物質の主要な部分構造として考えられた。
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