本研究では、岩礁域における住み込み共生系の動態および、共生系が促す共生者の進化の様相を明らかにすることを目標とした。そのために、温帯域の岩盤穿孔者として最も卓越するウニ類の巣穴に特異的に生息し、巻貝の系統にありながら「巻き」を失った貝類ハナザラ(腹足綱・ニシキウズガイ科)の繁殖生態および、宿主・共生者の連動した個体群動態の解明に取り組んだ。 主な成果としては、宿主ウニおよびハナザラの中長期的な個体群動態を明らかにするために、約500個の巣穴を2年半に渡って追跡調査した結果をまとめ、論文を執筆した。本調査中には黒潮大蛇行による寒波が訪れ、調査対象のウニ類の約8割が死滅した。宿主となるウニの激減とともにハナザラも個体数が大幅に減少し、巣穴共生者の個体群動態が宿主の動態に左右されるという一例を明らかにした。本研究は、2021年9月16日付で国際誌Journal of Marine Biological Association of the United Kingdomに受理の後、出版された。さらに、ハナザラ近縁種における共生生活の獲得および貝殻の巻きの消失過程をより詳細に紐解くために、近縁4種についてDNAの多領域の解析を試みた。先行研究で既に解析されている4領域(28S・12S・16S・COⅠ)に更に4領域(18S・H3・H4・ANT)を加え、外群にあたる種と共に解析に取り組み、国産種の増幅可能領域については配列データの取得が完了している。本件についてはこの先、増幅困難な領域のprimer検討を行うと共に、国外産の種も加えて解析を続けることで、近縁種間の系統関係を解明する予定である。
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