研究課題/領域番号 |
21J30006
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
黒田 起吏 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC2)
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研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2023-03-31
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キーワード | 集団意思決定 / 多数決 / 社会情報 / speed-accuracy tradeoff |
研究実績の概要 |
研究1. 今日の情報社会では、人々の相互作用を通じて日々新たな社会規範が創発している。先行研究は、人々が既存の規範にどのように従うかを明らかにしてきたが、規範の創発特性には注目が集まっていなかった。そこで本研究では、これまでに実験室実験・fMRI実験・計算論モデリングを行い、規範の形成において双方向的な社会的影響が必要であることを示した。くわえて、今年度はオンライン実験(n = 216:事前登録済み)を行い、これまでの実験で得られた知見の頑健性と再現性を確認した。これらの実験結果は、双方向的な相互作用が新たな社会規範を生み出すことに貢献し、その結果、全く新しい事象に対する合意が人々の間で生まれうる可能性を示している。
研究2. 人間社会は、正確な意思決定規則である多数決に依拠している。このような集団意思決定では、通常全てのメンバーが情報を投入することが期待される。ただし、メンバーが集団からオプトイン/オプトアウトするかを自由に選べるようにすると、より自信があったり能力が高かったりするメンバーが積極的に集団に参加するようになる。その結果、集団パフォーマンスがさらに上昇することが知られている。しかし、個人の利害が強調される場合でもそれが成立するかどうかは未だにわかっていない。この問いに取り組むため、本研究では実験室実験・認知モデリングを行った。その結果、自信のあるメンバーほどむしろ集団からオプトアウトしやすく、その結果、簡単な課題では集団成績が落ちることが明らかになった。しかし、難しい課題ではなお集団成績が個人を上回ることが示された。これらの結果は、難しい課題では多数決がなお有効である可能性を示唆している。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
前年度までに進めてきた社会規範の創発に関する追加実験を行った。具体的には、7月にオンライン実験(n = 216)を実施し、状態空間モデルによる分析を行った。その結果、前年度までに得られていた「双方向的な相互作用が個人の知覚傾向を安定させる」という知見が再現されるとともに、その頑健性が確認された。また、多数決とメンバーの離脱・参入に関する研究(前年度までに実施)を日本心理学会第85回大会で発表し、学術大会優秀発表賞を受賞した(全発表中27件:黒田起吏・髙橋茉優・亀田達也『自信のないメンバーによる投票バイアスが集合愚を生む』)。くわえて連名で行った発表も、同大会で学術大会優秀発表賞を受賞した(髙橋茉優・黒田起吏・亀田達也『格差是正と再分配意思決定に関する実験的検討』)。
来年度はマックスプランク人間発達研究所に滞在し、Ralf Kurvers博士と共同研究を行う予定である。今年度は、Kurvers博士とオンラインミーティングを行い、来年度以降の研究に向けて準備を重ねてきた。なおこの研究は、令和4年度日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラムの助成を受けることが決まっている。
COVID-19による障害が残る中で、これらの取り組みや研究成果が得られたことを踏まえると、当初の計画以上の研究の進展があったと言えるだろう。
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今後の研究の推進方策 |
来年度はマックスプランク人間発達研究所に滞在し、Ralf Kurvers博士と共同研究を行う予定である。今年度は、Kurvers博士とオンラインミーティングを行い、来年度以降の研究に向けて準備を重ねてきた。なおこの研究は、令和4年度日本学術振興会若手研究者海外挑戦プログラムの助成を受けることが決まっている。この半年間の研究滞在を通じ、spped-accuracy tradeoffと社会情報利用に関するオンライン集団実験を行う。
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