本研究の目的は、スンナの医学をとおして東アフリカ沿岸部の人々が抱える苦悩を分析し、社会的・個人的問題の諸相を明らかにすることである。 2022年5月には、第59回日本アフリカ学会学術大会において「イスラーム儀礼における太鼓使用の意義:東アフリカ沿岸部の事例から」というタイトルで研究発表を行い、コロナ禍で現地調査が実施できない中、これまでの研究内容を考察し、スーフィー教団で使用される太鼓の役割と意義について考察した。 9月にはザンジバル(タンザニア連合共和国)において4年ぶりに現地調査を実施し、村の女性たち十数人に対して病歴や精霊による病、病との付き合い方、スンナの医学の治療についてのインタビューを行った。また、スンナの医学の治療所では、治療者にインタビューを行い、クルアーンを朗誦して実施する治療の参与観察を行った。 11月に箕面市立船場生涯学習センターで実施した秋の生涯学習講座 「アフリカの今を知る」では、「伝統医療からみる東アフリカの文化・社会」と題して一般向けにこれまでの研究内容を講演し、東アフリカ沿岸部では精霊の存在が人々の病の原因の一部として認識していることを紹介した。2023年3月には、「社会に息づくスーフィズム:東アフリカ沿岸部の事例から」と題した論文を、赤堀雅幸(編)『今日のスーフィズム:神秘主義の諸相を知る』(上智大学イスラーム地域研究所)で発表した。本書籍は2021年度に実施した公開講座の成果物であり、学部や大学院で活用されるテキストでもある。本論文では、タリーカ(スーフィー教団)が東アフリカのイスラーム化に貢献するとともに、女性も主体的に教団活動に参加していることを示した。 以上のように、特別研究員の職は2022年7月末に辞退したが、特別研究員奨励費の使用は2023年3月末まで認められたため、本年度は海外調査も含め、順調に研究を推進することができた。
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