研究課題/領域番号 |
21J40048
|
研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
清水 志真 国立研究開発法人理化学研究所, 仁科加速器科学研究センター, 特別研究員(RPD)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-28 – 2024-03-31
|
キーワード | 陽子構造 / 超前方カロリメータ / EIC / 深非弾性散乱 |
研究実績の概要 |
アメリカで進行中のElectron Ion Collider(EIC)計画へ向けた研究を進めた。2021年、EICでは予算上建設が確約されている衝突点1箇所での検出器の選定に向けて、準備段階の大型国際共同実験が複数立ち上げられ、実験プロポーザルの作成がなされた。私はこのうち、ECCE実験に参加し、超前方カロリメータの開発研究および深非弾性散乱断面積測定の研究を行った。 超前方カロリメータ(ZDC)は衝突点から陽子・イオンビーム前方に設置予定の光子および中性子検出のためのカロリメータである。このZDCのデザインを検討し、クリスタルカロリメータとサンプリングカロリメータを組み合わせたカロリメータを実験へ提案した。シミュレーションを用いて光子および中性子に対する性能を見積もり、物理測定に必要とされる性能を満たすことを確認した。提案したデザインはECCE実験プロポーザル文書に採用された。 また、ECCE検出器のフルシミュレーションを用いて、電子・陽子衝突での散乱断面積の測定精度の見積りをおこなった。電子・陽子の散乱事象をモンテカルロシミュレーションを用いて生成し、検出器のシミュレーションをおこなった上で、中性流深非弾性散乱(NC DIS)、荷電流深非弾性散乱(CC DIS)それぞれの断面積測定の解析をした。複数の手法を用いて散乱の運動学的変数の再構成の精度を確認し、事象選別を行って断面積測定を進めた。特にCC DIS測定では検出器の理解について課題を残したが、過去の測定よりも高いBjorken x領域での測定が期待できることを確認した。 以上のZDC研究および測定精度の研究内容をそれぞれテクニカルノートにまとめた。これらのノートはECCE実験プロポーザル文書の添付文書として、プロポーザルに含められた。なお、2022年3月、ECCE検出器がEICの検出器として選ばれた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
初年度の研究計画として中性流(NC)・荷電流(CC)深非弾性散乱断面積測定の精度見積、縦方向陽子構造関数の導出の検討、超前方カロリメータ(ZDC)開発の準備を予定していた。このうち、縦方向陽子構造関数の精度見積りまでは進められなかったが、NC・CC断面積測定の精度見積は具体的な検出器デザインのシミュレーションを用いて予定通りすすめることができた。これにより、EICでの電子・陽子散乱断面積測定がどの運動領域をカバーするかについて以前よりも現実的な見積ができ、過去の実験よりもエネルギーは低いものの新しい運動領域に届くことを確認した。また、ZDC開発については当初の予定を超え、ZDCのデザインの提案および性能の見積もりまでをシミュレーションに基づいて行うことができた。提案したデザインはEIC計画において採用され、EIC計画のZDCとして今後のベースラインとなった。並行して実際の開発へ向けて、ZDCへ採用予定の技術を使った他実験用カロリメータのビームテストや、放射線耐性の検討のための中性子照射実験へ参加した。
|
今後の研究の推進方策 |
2年目にあたる2022年度は、主にZDC開発を進める。ZDCの現在のデザインをさらに具体化・改良するべく研究を行う。 ZDCでは中心部に、ALICE実験用に開発中の前方カロリメータFoCalと同様の構造を採用することを検討している。2022年度はFoCalのビームテストが他の研究者によって国内外で予定されており、適宜これに参加する。ビーム環境下でのFoCalの性能の理解を進め、ZDC開発へ反映させる。また、ZDCのクリスタルカロリメータやシンチレータの読み出し部検討のため、光センサAPDの性能評価を行う。初年度末に、APDテスト用の簡単なテストベンチを用意するのと並行して、放射線耐性の検討のため中性子照射をおこなった。この結果の検討を進める。 シミュレーションによるZDCの性能評価も引き続き進める。初年度のシミュレーションは一部簡易的となっていたが、より実際に近いシミュレーションへと改良し性能を検討する。また、初年度に行った単発の中性子・光子に対する性能の見積もりだけでなく、一度に複数の粒子がくる場合などの複雑な環境下でのZDCの性能を評価する。さらに、上記の研究内容を踏まえたデザインの変更・追加などについても、シミュレーションによって評価する。
|