研究課題/領域番号 |
21K00006
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研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
宮島 光志 富山大学, 学術研究部薬学・和漢系, 教授 (90229857)
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研究分担者 |
森下 直貴 京都府立医科大学, 医学(系)研究科(研究院), 客員教授 (70200409)
李 彩華 名古屋経済大学, 経営学部, 教授 (10310583)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 三木清 / 共生社会 / ヒューマニズム / 満洲 / 『人生論ノート』 / 老成学 / 農本主義 / 出版文化 |
研究実績の概要 |
本研究は三木清(1897-1945)の「東洋的ヒューマニズム」理念を「中間者の哲学」の展開形態として読み解き、そこに未来志向の共生社会を哲学的に基礎づける創造的な思想を際立たせることを目的とする。研究の方法は、三木が西洋の伝統的なヒューマニズム理念を超えて、独自の《人間が環境を創り・環境が人間を創る》という双動的・成全的な環境理論に立ち、新たな「東洋的ヒューマニズム」理念を打ち出すに至る思索を跡づけることを中心に据えている。そうした研究目的と研究方法に基づいて研究初年度には、コロナ禍という特殊な状況下で活発な共同研究を展開した。 まず研究の実施体制を確立できたことが成果である。本研究班は名古屋哲学研究会日本思想史部会を母体とし、長年の共同研究を継承して組織された。そこで「三木哲学と共生社会」という看板を新たに掲げて、隔月でのオンライン定例研究会を軌道に乗せることができた。そこでの論題は、①宮島光志「《三木清と滿洲》から共生社会(論)を考える―研究方法の根幹をめぐる検討」(第1回)、② 森下直貴「世代の思想とは何か―用不要の常識に対抗する視点」(第2回)、③李彩華「石川三四郎の思想と現代的「共生社会」」(第3回)、④成瀬翔「式場隆三郎と共生社会の課題―芸術・健康・満州」(第4回)、⑤宮島光志「日本倫理学会『人生論ノート』WS企画案の検討」(臨時協議会)である。 次に文献調査として、三木清の満洲体験に関する各種資料(三木自身、友人の唐木順三、恩師の寺田喜治郎に関する資料)を渉猟・発掘して、三木の満洲での足取りと思想形成の過程をダイナミックに解明するという課題を掲げた。その成果は、宮島光志「三木清と信州、そして満洲―旅と友情の生涯を偲んで」(三木清研究会での公開講演会)であり、三木の満洲体験を多角的に分析して、その背景(岩波茂雄との関係)と三木哲学の展開に対する意義が解明された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上述のように、本科研費による「三木哲学と共生社会」研究会を組織して、隔月の定例研究会を軌道に乗せることができた。すなわち、各研究メンバーが独自に掘り下げた研究テーマについて例会の場で口頭発表を行い、参会者の意見交換により多角的な吟味検討を経て、最終的な成果を折に触れて公表するという研究スタイルが定着した。 それに加えて、令和4年度の実施予定事業として、三木清『人生論ノート』刊行80年記念企画(シンポジウムとワークショップの開催、および記念図書の刊行案)を、一気に具体化させることができた。なお、本研究計画を遂行するために必要な新規資料についても、網羅的に購入・取り寄せすることができた。 ただし、中国側の研究協力者との連携(共同研究の具体化)については、昨今の困難な国際情勢もあって、最低限の情報交換を重ねるに留まっており、令和4年度に訪中して現地調査を行う(すなわち、当初案を実現させる)見通しは立っていない。
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今後の研究の推進方策 |
当初の計画では「現地調査(フィールドワーク)」を研究実施2年目(令和4年度)に組み込み、本研究計画全体の最も重要な行事として位置づけ、予算全体の4分の1をこの現地視察に充てるはずであった。すなわち、三木清に所縁の旧満洲主要都市(満鉄関連施設および各種の文教施設など)を研究メンバー4名で訪問して三木の足跡を辿り直し、併せて中国人研究者(気鋭の三木清研究者のチョウ・リュウ女史を予定)を交えて、現地で「中国から見た東亜協同体論」に関する国際共同セミナーを開催する、という意欲的な研究活動を思い描いていた。 しかし、世界的に見てコロナ禍の完全な終息がまだ当面は見込めそうになく、併せて昨今のウクライナ情勢が国際的な学術交流全般に暗い影を落としている。また、そうした事態も絡んで、航空費の高騰は研究渡航を極めて困難にしている。 そこで中国渡航は事業期間の後半(令和5・6年度)に先送りし、実施可能な場合にも規模の縮小を図ることにして、それに見合った精力的な研究活動を日本国内で展開するという路線変更が不可欠となった。 そうた折に三木清『人生論ノート』刊行80年記念事業が具体化した。『人生論ノート』は三木の「東洋的ヒューマニズム」理念を色濃く湛えており、彼が目指した「民間アカデミズム」の建設と深く結びついていると思われる。それを市民的教養の涵養による「共生社会」の実現と受け止めるならば、本研究課題の副題「共生社会の哲学的基礎づけ」と見事に響き合ってくる。 したがって、実施2年目(令和4年度)は《『人生論ノート』をめぐる対話》事業に専心する。具体的には、一方では三木の「東洋的ヒューマニズム」理念を同書に即して(限界も含めて)鮮明に輪郭づけ、他方では同書の市民教育・生涯学習に対する意義(そして限界も)を、シンポジウムとワークショップによる対話を通じて浮き彫りにしたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究期間中に中国東北部で現地調査を予定しているが、中国渡航に要する旅費等が今後、(昨今の厳しい国際情勢の影響を受けて)当初の見込みよりも大幅に高騰することが懸念されている。そこで研究実施初年度から計画的に、一定額の海外旅費を温存しておく必要に迫られている。そうした止むを得ない事情から、昨年度は物品費と国内旅費を大幅に切り詰めて、当初予算の約半額を次年度に回すことになった。 今後の使用計画としては、次年度(令和4年度)も引き続き国内で実施可能な共同研究に専念せざるを得ないが、その成果の主要な部分を年度末には研究図書として刊行する予定である。その刊行事業に研究助成金の一部を積極的に活用し、併せて、令和5年度に実施予定の海外調査に向けて、一定額の旅費を温存する予定である。
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