研究課題/領域番号 |
21K00007
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研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
秋葉 峻介 山梨大学, 大学院総合研究部, 特任講師 (80861012)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ケア倫理 / 関係的自律 / 家族 / 共同意思決定 / 生命倫理 |
研究実績の概要 |
2021年度は、ケア倫理やフェミニズムの立場の議論における家族の位置と自律との関係を中心として文献の精読・分析に取り組んだ。また、日本における医療・ケアに関する共同意思決定、アドバンス・ケア・プランニング(ACP)の議論についてその理論構造の分析とガイドライン等の政策レベルでの扱われ方について検討した。 日本臨床死生学会において行った口頭発表では、ケア倫理やフェミニズムの立場において家族のための意思決定を「自律的」と評価し得るとした場合、家族の関与は自律的な主体性を侵害せず維持につながるという前提に立ち、相互関係における家族の幸福への配慮が自律的な主体性の一部として組み込まれていると解することで、自律の相互尊重としての意思決定の正当性が担保される構造になっていることを示した。 日本生命倫理学会では、新しい家族/親密圏においても家族とケアとの強固な結び付きがみられると指摘した。そのうえで、新しい家族/親密圏の概念が患者にとっての最善や自己実現について患者の主体性が発揮できる関係を医療・ケアにおける共同意思決定に取り込める点で寄与していることを示した。他方で、ケア関係の維持やあるべき家族像を前提した議論は、ケア倫理を洗練したというよりも「家族倫理」へと逆行していく流れがあることに留意しておく必要があると指摘した。 日本医学哲学・倫理学会においては、共同意思決定やACPにおける意思決定主体がどのようなものであるか検討した。<患者(患者―家族(患者))>のように患者が家族との関係を自ら内面化(関係的内面化)した主体が、家族との承認関係において自律を支えられ、そのうえで意思決定を行う主体であるならば、強い個人の自律に基づく合理的行為選択の議論とは別の仕方で捉え直される主体として再検討されるべきであることを示した。なお、本発表の内容を整理・修正したものを同学会学会誌に投稿した(現在査読中)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルス感染症の感染状況により、学外出張が制限されたため2021年度に予定していた学外での文献調査を実施することがかなわなかった。館外持ち出しのできない文献等を含めて網羅的に調査を行うことが織り込まれていたこともあり、文献の収集や精査が予定よりもやや遅れている。 また、外国語文献の調達とその整理・精読がやや遅れ気味である。調達については海外からの取り寄せの期間が予想よりも長くかかったケースが少なくなくあったことや、購入予定であった文献の公刊が先延ばしになったりと予定外のタイムロスが生じた。これにより、2021年度に予定していた外国語文献の検討が思うように進まなかった部分があった。 他方で、調達できた文献や資料等により、研究成果の発表はおおむね順調に行えた(関連する学会発表4件、論文投稿2件)。本研究の目的を達成するためには、インプットはもちろんのことであるが、アウトプットした成果について学会等で意見や批判を得ることによって議論を精緻化することが必要不可欠だと理解している。このため、意見交換という意味でもある程度の収穫があったものと認識している。 以上から進捗状況を「やや遅れている」と判断する。
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今後の研究の推進方策 |
2022年度は、2021年度に積み残しとなったフェミニズムやケア倫理に関する外国語文献の分析を進めるとともに、ケア倫理を「家族倫理」とみたときの患者・家族の関係、また、家族を持たない者の捉えられ方について主題的に取り扱う。これらをもとに、ケア倫理の批判的検討につなげ、「家族倫理」と自律や自己決定論との関係を浮き彫りにしていく。これにあたって、まずは2021年度の研究成果である口頭発表の内容のうち、論文としてまとめられていないものについて整理・修正のうえ公表することを目指す。 次いで、従来のケア倫理が「家族倫理」として解釈し得ることについてEva Kittay やSusan Okin 、Michael Sloteなどの議論を対象として批判的に検討していく。①家族とケアの関係について、ケアを担う家族の存在を前提して議論が組み立てられていることを示すこと、②家族を持つ者/持たざる者においてケアが平等であるか検討すること、③医療・ケアに関する意思決定においてケア倫理と自律・自己決定論とが「家族」を依り代として共存関係にあることを明らかにすること、の3点を具体的な目標として設定する。 以上の成果については2021年度同様、各種学会・研究会での発表および論文投稿を行い、成果の発信ならびに意見交換によって研究を精緻化していく。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の感染状況により、学外出張が制限されたため2021年度に予定していた学外での文献調査を実施することがかなわなかった。また、当初オフラインでの開催予定であった学会等がオンラインのみでの開催に変更されたこともあり、予定していた交通費が発生しなかった。これらにより、計上していた旅費をまったく使用することがなかった。2022年度については、繰り越し分も含めて感染状況を注視しつつ調査・学会等への参加に活用したい。 また、専門的な知識を有する者を招聘して研究会を開催する予定であったが、先方の都合により開催がかなわなかった。これにより、計上していた人件費を使用することがなかった。2022年度については、スケジュール調整・開催方法の見直しを行い、貴重な意見交換の場を設けられるよう十分に留意する。繰り越し分は招聘する専門的な知識を有する者を増やす、あるいは開催回数を増やす等して有効に活用する。 物品費、その他についてはおおむね計画通り活用できている。2022年度も、物品費については生命倫理・家族社会学・法哲学等に関する文献の購入に充てる。その他については会議の開催に係る費用、学会参加費、論文投稿費等に活用する。
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