最終年度である2023年度は、生/死をめぐる意思決定において前提される「関係性」をあらためて問い直すことを含め、ケア倫理と自他関係、自己への配慮の議論との関連について分析し、それがいかにケア倫理の批判的再構築につながり得るのか考察する。そしてまた、そこで示される再構築された「倫理」がはたしてケア倫理の系譜に位置づけられるのか、あるいは生/死をめぐる意思決定に関する倫理の新しいあり方であるのかについて中心として取り組んだ。 研究成果の一部である博士学位論文の第5章から第7章において、家族倫理としてのケア倫理ではない仕方での関係性の把握や、別の仕方での倫理の在り方を検討した。また、ケア倫理や関係性といった論点を盛り込んだ生/死をめぐる意思決定の実践としてのACPや共同意思決定において、われわれが行っていることとは何なのかについて検討を加えた。これらにより、①関係性に着目した生/死をめぐる意思決定の実践においては、そのプロセスを通じて、われわれは「人生の物語り」あるいは自己自身を主体的に再構成・再創造している②この再構成・再想像とは、生のテクネー、自己に向けた自己の生の作品化である③この達成には、眼前に実在する他者との自他関係に限定されず、あるいはむしろ自己のうちに内面化した「可能的」な他者と自己との自他関係における自己自身への呼びかけが求められる、ということを明らかにした。 以上を踏まえ、これまでの研究成果を総括し、「人生の最終段階」の医療・ケアに関する理論的枠組みにおける生/死をめぐる意思決定の倫理について、自己のうちに内面化した自他関係によって成立する〈可能的自他関係における自己実現の倫理〉という新たな枠組みを提示した。
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