研究課題/領域番号 |
21K00008
|
研究機関 | 山梨大学 |
研究代表者 |
香川 知晶 山梨大学, 大学院総合研究部, 医学研究員 (70224342)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
|
キーワード | デカルト派医学 / デカルト / トリアージ / 人間論 |
研究実績の概要 |
2022年度はコロナ禍とウクライナ紛争の影響によって、本研究課題は計画の大幅な修正を余儀なくされた。そのため、研究はもっぱら基本的な文献探索および収集した文献の整理を中心にすることとした。 本研究課題では(1)テキスト的な問題を含めた『人間論』の検討によるデカルト医学思想の解析を基に、(2)デカルトがオランダ滞在中に生じたデカルト新哲学への批判を医学生理学思想の観点から整理し、さらに(3)デカルト没後の新哲学の影響を医化学派の展開のなかに位置づけること、という3つを研究目標の柱に置いてきた。本年度はこれら3つの柱のうち(1)を中心にもっぱら文献探索による研究を進めてきた。デカルトの医学生理学思想の特色を理解するためには、ヒポクラテス・アリストテレス・ガレノス以来の西洋医学の歴史的伝統と特にルネサンス以降の解剖学の新展開を受けて、それらを統合する役割を果たしたボアンの解剖学との関係を解明することが必要となる。 本年度にはそうした古代以来の医学史的分析を進め、その一端をコロナ過との関係で注目をあつめたトリアージ概念をめぐる論考(「トリアージとは何か」in加藤泰史(編)『コロナ・トリアージ 資料と解説』2023、知泉書館、5-21頁)に示すことができた。また、そうしたトリアージをめぐる問題一般やゲノム編集等の新しい医療技術の進展とともに登場してきている問題を論じる際には、その背景としてデカルト以降の近世西洋哲学についての研究が生かされている。 なお、本年度では、以下の8に記載するように、この(1)の柱についてはさらにその主題自体を対象とする研究成果の公表の準備を進めることができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究遂行の大幅な遅延はもっぱらコロナ禍とウクライナ紛争の影響によるものである。その影響によって、当初予定していた海外研究者の招聘及び現地調査を延期せざるを得なくなった。 もちろん、基本的な文献調査は現状でも十分可能であり、その部分については公表に向けた準備を進めてきた。しかし、医学生理学思想に関してはその理解のためには資料のアーカイブ化との関係が重要であり、その点で現地調査は不可欠である。現状では、それが実行できていない。そのため、本研究課題の進捗状況をやや遅れていると区分した。
|
今後の研究の推進方策 |
本研究課題の進行の遅れからすると、当初の計画を一部見直す必要があると考えている。具体的には、当初、デカルト派の展開を文献調査を基に明らかにする予定であったが、その点を若干修正し、まずは出発点となったデカルトの医学生理学思想を歴史的な流れの中で解明する作業を進め、その成果を確実に残すことを目指したいと考えている。 そうした変更の一環として、Annie BITHBOL-HESPERIES博士の著書(Le principe de vie chez Descartes)を翻訳、刊行することを目指し、作業を開始したところである(出版社は内定している)。博士とはこれまでも日本語の翻訳(『デカルト医学論集』2017、法政大学出版局;アドリアン・バイエ『デカルトの生涯 校訂完訳版』2022、工作舎)について密接な打ち合わせに基づく共同作業を行った実績がある。今回も、それらの実績を生かし、単なる翻訳書ではなく、本研究課題の遂行による成果も盛り込んだ研究書の刊行を目指したい。 あわせて、デカルト派医学の展開との関係で現地調査も何とか実施したいと考えている。
|
次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍及びウクライナ紛争のため、現地調査及びフランスからの研究者招聘が実施できなかった。状況を見ながら2023年度中に計画を当初の予定に近い形で、現地調査等を実行に移したい。少なくとも現地調査は規模を縮小してでも実施することを予定している。
|