本研究課題の最終年度は、井筒俊彦が『言語と呪術』において意味生成(言語発生)の究明のために典型的具体例として取り上げた詩的言語、とりわけそれを特徴づける心象喚起の仕組みを分析する方法論・手法と、井筒俊彦・豊子の共著The Theory of Beauty in the Classical Aesthetics of Japanの分析・解釈との比較研究という前年度までの実績をふまえ、能楽テクストに記される中世的な自然観照の理念を、対応する記紀神話や中世神道、『古今和歌集』『新古今和歌集』および歌論、さらに『伊勢物語』『源氏物語』『平家物語』といった物語と本居宣長によるこれらへの注釈を対照させながら分析記述することで、心象喚起に関する井筒理論の射程や有用性を検証した。世阿弥や禅竹の理論書に見られる理念を、『采女』『東北』『杜若』『定家』さらに『松虫』の具体例で検討し、自然界とそのイメージとの照応が言語芸術として体感できる方法を記述した。その思想史的・理論的背景は2023年9月9日に第7回European Network of Japanese PhilosophyでOn Izutsu and Yogacaraと題し、またその言語理論的問題は2024年3月3日に第4回「場の言語・コミュニケーション研究会」で「〈主客を共に含む場〉はいかなる経験か 」と題して発表した。『言語と呪術』と『意識と本質』の内的連関を解明し、井筒理論の射程や有用性を検証するために和歌・歌論に特化した記述を行った実績は、単著として2023年9月に『井筒俊彦:世界と対話する哲学』として公開ができた。国際シンポジウムは本務校と海外の諸大学との日程調整が不可能であったため、対面による口頭発表を変更し、国内外の連携研究者らとの共同研究成果を英語論文集刊行(エディンバラ大学出版会と準備中)として公開することが決定した。
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