今後の研究の推進方策 |
来年度はまず、ハーバーマスに後続するフランクフルト学派第三世代における「自然主義」的議論の展開を精査する。具体的には、ハーバーマスの「コミュニケーション理論」の基本的コンセプト、すなわち、理想的発話状況が成立する言語論的条件に社会的解放の審級を見出そうとする企図を、合理性の過度の偏重として批判するアクセル・ホネットの立場に注目し、身体的情動性という「自然」的契機に根ざした他者への「共感」あるいはその「承認」のあり方を、新たなコミュニケーションパラダイムを形づくる重要な契機として導入する必要性を主張する『承認をめぐる闘争』(Kampf um Anerkennung, Suhrkamp, 1998.)の議論を、まずは詳細に検討したい。そのうえで、ホネットのそうした立場と、観念論的な存在の唯物論的な被規定性に注目する第一世代の「自然主義」的観点との異同を明らかにしながら、フランクフルト学派における「自然主義」的議論の系譜を包括的な見地から取り纏めていきたい。 他方で、フランクフルト学派の「自然主義」を現代の自然主義の展開の中に適切に位置づけるべく、自然主義をめぐる現代的な議論を包括的に検討することにしたい。具体的には、ハットフィールドによる近現代ドイツにおける自然主義の展開に関する系譜学的研究(Gary Hatfield, The Natural and the Normative, The MIT Press, 1990.)、あるいは、英語圏の分析哲学における自然主義の復権に関するキッチャーの歴史的研究(Philip Kitcher, The Naturalists Return, in: The Philosophical Review, Vol.101, No1, 1992.)等を主要な手掛かりとしながら、現代における自然主義の展開に関する総合的な知見を形成していきたい。
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