研究課題/領域番号 |
21K00043
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研究機関 | 同志社大学 |
研究代表者 |
森田 團 同志社大学, 文学部, 教授 (40554449)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ベンヤミン / 歴史哲学 / 美学 / 言語哲学 / 悲劇 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、ベンヤミンの悲劇思想を中心に研究を行った。その際、「ギリシア悲劇と悲哀劇」、ならびに「ギリシア悲劇と悲哀劇における言語の意味」というともに1916年に書かれたテクストの読解を軸に、同年に執筆された「言語一般および人間の言語について」において展開されたベンヤミンの言語思想が悲劇解釈にいかに適用されているのかという問いに取り組んだ。その成果の一部は、実存思想協会第37回の講演会「ベンヤミンと実存思想」における「〈悲劇的実存〉と言語――初期ベンヤミンにおける悲劇解釈」と題した発表において公表した。また発表の内容を大幅に改めた同名の論文は令和4年度に出版される予定である。 当該年度においては、予定していた研究主題のなかでもとりわけ『ドイツロマン主義における芸術批評の概念』(1919)における議論を、ロマンとの言説をにらみながら検討するとしたが、フィヒテの反省理論とシュレーゲルの文学理論がベンヤミンにおいてどのように解釈されているかを検討した。上記の発表におけるシュレーゲルの唯一の戯曲『アルラコス』(1802)の分析――発表や論文ではすべてを示すことはできなかった――もまた、この検討のうちに含まれている。 また上記発表との関連において、二つの悲劇論から「カルデロンの『げに恐ろしき怪物、嫉妬』とヘッベルの『ヘロデとマリアムネ』――歴史劇の問題についての覚書』」(1923)を経て『ドイツ悲劇の根源』(1925年脱稿・1928年出版)にいたるベンヤミンの思考の展開を、罪概念を中心に追うことができたのも、令和3年度の成果である。その際、ヘッベルの「演劇についての私見」(1843)における罪概念をベンヤミンがいかに解釈したのかについて考察が、大きな手掛かりとなった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
上記のように、令和3年度においては、ベンヤミンについての学会発表を論文にまとめる機会をえた。そこではベンヤミンの悲劇解釈と、その基盤となる言語哲学との関連を明らかにすることを試みたが、そのためにベンヤミンが近代悲劇の範例としたシュレーゲルの『アラルコス』を読解・分析することによって、上の連関を説得力あるかたちで解明することができたことが大きな成果であり、研究が計画どおりに順調に進展しているとした主要な理由である。 また悲劇解釈と言語哲学の連関は、『ドイツロマン主義における芸術批評の概念』におけるロマン派解釈にも、かたちを変えて引き継がれているが、このことについても一定の洞察も得ることができた。ベンヤミンは、ロマン派の芸術理論の出発点を反省概念に見出すが、その際、反省とは自己触発による生の自覚の形式であり、この自覚の一表現が芸術形式であった。反省において生というものが形式的に無限に連関しながら、統一へと向かうことを可能にするものを、ベンヤミンは、自ら独自の概念である「反省媒質」によって捉えようとした。 今年度の研究では以上の認識を踏まえ、反省媒質が「言語一般および人間の言語について」において展開された言語表現の根本構造によって解釈されること、またこの概念によって連関するもろもろの(芸術)形式が、その実現においてまさにその実現を阻害する記号との相克において理解されること、そしてロマン派の理論ならびにベンヤミンのロマン派解釈の潜在的前提として、カントの『判断力批判』における「形式=かたち」の反省の理論があり、その関連での読解可能性への見通しが開けたことが、この年度のもうひとつの進展の概要である。
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今後の研究の推進方策 |
令和4年度は、研究計画どおり、ベンヤミンの悲劇解釈と言語哲学との連関に引き続き重点を置き研究を遂行する。その際、12月に開催される西日本哲学会の第73回大会でのシンポジウム発表において、ベンヤミンの言語哲学――とりわけアレゴリー概念――を主題することによって、そしてまたこの発表をもとにした論文を、令和5年度に発行される『西日本哲学会年報』に公表するために準備することが、今年度の研究遂行にあたっての主要な実質である。 また大学院において「ベンヤミンの美学」と題した講義を、年度後半に行うが、この講義を利用しながら、本年度の研究をさらに進める予定である。具体的には、令和3年度の悲劇解釈と言語哲学との関連への洞察を踏まえて、それが『ドイツ悲劇の根源』における「認識批判序説」へとどのように受け継がれるのかを跡付けたい。 このような研究に平行しながら、十七世紀のドイツ悲劇、とりわけグリューフィウス『レオ・アルメニウス』の読解を行いながら、上記の研究課題の基盤を固めたい。 研究遂行の際には、全体の研究計画を理論的に緊密に連関させることを意識し、上記の学会発表ならびに大学院の講義を弾力的に利用しながら、研究を有機的に発展させることを心がけるつもりである。
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