研究課題/領域番号 |
21K00047
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井川 義次 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50315454)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 儒教・宋明理学 / 張居正 / フランス革命 / 『帝鑑図説』 / 『中国帝王の記憶すべき事蹟』 / 王権神授・絶対王政 / イエズス会宣教師 / 啓蒙主義 |
研究実績の概要 |
本研究においてはこれまで蓄積した事柄、すなわち儒教思想とりわけ、宋明理学の欧米における情報受容並びに欧米の哲学者思想家たちに対する具体的影響関係についての分析に直結する事実を実証的に文献から読解することである。2021年度の実績としては、膨大な情報の内整理を要するものを整理し、また未だ解明されてこなかった儒教関連文献の内容を訳解し、中国側文献と照らし合わせる作業を行った。さらには日本ないし世界各国では未だ研究されてこなかったフランス革命直前の1788年にヨーロッパに銅版画つきで公刊されたエルマン(Isidore-Stanislas Helman。1743-1806あるいは1809)による『中国帝王の記憶すべき事蹟』について考察を行った。これはフランス人カトリック宣教師アミオの『孔子伝』についで儒教ならびに中国の名君観と暴君観をブルボン王朝崩壊前夜に欧州社会に紹介した文献として重要である。 『中国帝王の記憶すべき事蹟』は直接には明代の著名な政治家でありまた文教行政の長を兼務し、さらには萬暦帝の師傅でもあった張居正の木版画つき皇帝に対する教科書『帝鑑図説』の簡約版である。『中国帝王の記憶すべき事蹟』は、『帝鑑図説』の西洋画版を希望した乾隆帝から依頼されたたためであった。これは先行する乾隆帝ジュンガル遠征の銅版画のできに満足したことに基づいていた。 エルマンは革命進行の時期に、マリー・アントワネット、ルイ16世処刑等フランス革命の主要な出来事の図版まで著している。彼は王権神授説・絶対王政に対して脅威を与えかねない儒教の君主評価の基準たことは、革命勃発の天下の役割の一つとなったことになるたことは、革命勃発の天下の役割の一つとなったことになる歴史的文脈からすれば結果的に研究においてはフランス革命前における当該問題に関わる儒教古典や関連文献の翻訳をめぐって考察した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画においては、これまで30年来の研究で追求できなかった、中国情報や儒教古典に関するラテン語・フランス語東欧米の処分権を中国側儒教文献、四書五経ならびにそれに関する歴代の注釈者による解説との照らしあわせの作業をこれまで以上に進展し得たということができる。 たとえば四書中の論語や孟子における、堯・舜・禹・成湯王・文納・武王等々理想の聖王、君主観と、それと対蹠的な、桀紂を代表とする民を虐げる暴虐の君主らについての評価に関して、中国哲学に好意的だったイエズス会宣教師たちが、王権神授・絶対王政とそれを支えるキリスト教の価値観の元にあった西欧世界にラテン語・フランス語等を通じて翻訳紹介してしまったことについて探索できた。 とりわけまさにフランス革命一年前という時期に、張居正による帝王教育の教科書としての木版画入り『帝鑑図説』の銅版画つきフランス語訳解『中国帝王の記憶すべき事蹟』について、中国歴代の名君と、筆誅を加え続けられてきた暴君の実例についてビジュアルの形でヨーロッパ世界に紹介されてしまった事実に関して、主要な人物の仏語の紹介とその原本となった歴代中国史の原文ならびに張居正の解説とを三次元的に照らし合わせることができたのは研究の順調な成果と見なしてよいものと考えられる
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今後の研究の推進方策 |
本研究に関しては、記述の通り、東西文化が直接接触し交渉した史実でありながら、ほとんど文献実証的研究が存在しなかった中国哲学の欧米世界への伝播について、考究するものであり、アジアのヨーロッパ絵の影響を考察することは十分可能であり、この30年間の筆者の研究によって、そのいったんは解明されたものと信じる。 文献資料については思いの外豊富であり、研究の推進とこの方法論が継承され分析に用いられ、さらに蓄積されてゆくなら、世界史の未解明の部分の真の東西の国境を越えた思想の相互影響の実態を知ることが可能となろう。こうした視点からこれまで、儒教の哲学・思想の欧米に流入した情報と、識者に対する影響の実際に関して調査してきたが、欧文・漢文・ならびにその注解はまだまだ多数存在しているために、今後これまでの考察を踏まえてよりいっそうの分析解明を進めるつもりである。その一つとしては、これまで検討してきた中国哲学紹介のイエズス会宣教師らの、未解明の翻訳や、研究書を訳読することを進めてゆきたい。また上述の『中国帝王の記憶すべき事蹟』について、まだ聖王と暴君に関する史実に関する考察があり、いっそうの解明を進めるつもりである。また本書に類似した、視覚情報にも訴える諸文献の分析をも実行するつもりである。最後に目下も目的の一つであるが、イエズス会士たちによるキリスト教からの価値観・視点からによる中国哲学観の紹介を超えた、客観研究を標榜する、近代シノロジーの儒教・中国哲学観についての解明も進めたい。またかなうことならば、スタニスラス・ジュリアンによる満州語訳をも踏まえた老子道徳教の訳解についても考察を進めたい。
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