最終年度も『牟宗三全集』全32巻など、第1年度に購入・収集した関連資料に基づき、特に牟宗三が「中国哲学」の特質をどのように考えているのか、中国哲学はどのような点でヨーロッパの哲学や宗教と異なっているのか、現代社会において中国哲学はどのような意味をもっているのか等について考察を行った。また前年度に引き続き、『心体と性体』総論部分の翻訳を進めた。 本研究は、3年間にわたり、以下の5点について解明を試みた。(1)牟宗三は儒教文献をどのように解釈することで中国思想の中に「道徳的形而上学」(道徳をベースとした形而上学)、すなわち道徳即宗教という「道徳的宗教」の存在及びその歴史的な流れ(道統)を見出していったのか、(2)牟宗三は、宋明思想の文献をどのように解釈・整理することで、宋明思想を三系統に分け、程頤・朱熹の系統を支流とする斬新な学説を導き出していったのか、(3)牟宗三は宋明思想における「理」をどのように分析、解釈しているのか、(4)牟宗三の思想・立場と他の新儒家(梁漱溟、熊十力、唐君毅、徐復観など)の思想・立場にはどのような異同があるのか、(5)牟宗三の構築した儒教哲学にはどのような現代的な意味、可能性があるのか。 研究期間中、10回のシンポジウムに参加し、研究成果の一部を発表するとともに、学術雑誌や学術専門著作などに投稿し、すでに9篇の論文が掲載され、公となっている。研究期間全体を通じ、これまでの日本ではあまり取り上げて分析されることのなかった牟宗三の宋明思想三系統説の論理構造、朱子学解釈の特異性、中国哲学研究の分野における牟宗三の貢献、重要性などが明らかになったものと思われる。ただ翻訳作業に関しては未完であるため、研究期間終了後も継続して進め、完成を期する所存である。
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