研究課題/領域番号 |
21K00054
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研究機関 | 東洋大学 |
研究代表者 |
菊地 章太 東洋大学, ライフデザイン学部, 教授 (40231279)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 媽祖 / 東アジア / 東西交渉 / 民間信仰 / 比較宗教史 |
研究実績の概要 |
本研究は媽祖崇拝が東アジアの海域世界に伝播していく過程で生じた東西交渉の足跡を比較宗教史の視点から解明することをめざすものである。考察を実証的に遂行していくための具体的な作業として、文献研究と現地調査を2つの基本的な柱とする。 文献研究に関しては、2020年度に終了した科学研究費助成基金の研究(「媽祖崇拝の比較宗教史的研究 - 民間信仰と諸宗教の融合による東アジア海域世界への伝播」基盤研究C)において、媽祖崇拝の根本史料である『天妃顕聖録』『天妃娘媽伝』『天后聖母聖蹟図誌』の解読作業を終えたので、つづく本研究においてまず遂行していく作業は、以上の史料について詳細な注釈を施すことである。初年度(2021年度)は『天妃顕聖録』の注釈作業に従事した。次年度(2022年度)は当初の研究計画に従い、『天妃娘媽伝』の注釈作業を継続しつつ、史料本文と注釈の語彙索引を作成する作業を並行しておこなう。そのうえで媽祖崇拝の東西交渉のありようを考究するための文献的基礎を構築することを目標とする。 現地調査に関しては、媽祖像をはじめとする道教神像・聖母像等の写真撮影、聖職者や信者からの聞き取り調査、図書館・古文書館等での資料収集をおこなうことをめざしている。初年度に五島列島および天草諸島の社寺・教会において媽祖ならびに海の守護神崇拝の痕跡を探ることを計画したが、新型コロナ・ウイルスによる感染症被害の拡大状況を懸念して実施を断念した。そこで次年度にこの調査を実施する予定である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本研究を推進していくうえで基本となる作業は、文献研究と現地調査を併行しておこなうことである。まず文献研究については当初計画していたとおり『天妃顕聖録』の注釈作業に専念した。この書物は媽祖の伝記資料としてもっとも重要なものの一つであり、近世中国における媽祖崇拝の普及を考察するうえで不可欠の文献だが、成立は媽祖の没年から多くの時を隔てているため著しく神話的な潤色が加わっている。そこでまず歴史的な事実を解明するために、媽祖と同時代の文献である『宋会要輯稿』等を参照した。 そのうえで宗教文献としての『天妃顕聖録』の記述内容を検討したところ、明末に成立したとされる『三教源流捜神大全』からの影響が顕著に認められた。同書は儒・仏・道三教の神仏の伝説を集成した百科全書であり、道教の神々を列挙した巻に「天妃娘々」の項がある。そこには媽祖の母親が夢で南海観音から優曇華の花をさずかり、これを飲んだところ身ごもったとある。この話を受けたのが『天妃顕聖録』の記述であり、そこには媽祖の両親が観音菩薩に子をたまわるよう祈ったところ、母親が丸薬をさずかる夢を見て懐胎したと語られている。ほかにも『天妃顕聖録』には『三教源流捜神大全』に取材した話がいくつかあることが明らかとなった。 以上の点から、文献研究に関しては(1)「当初の計画以上に進展している」が該当するが、上述の理由で現地調査をおこなうことができなかったため、全体において(2)「おおむね順調に進展している」を選択した。
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今後の研究の推進方策 |
媽祖崇拝を研究対象として東アジアの民間信仰における東西交渉のありようを比較宗教史的にたどる考察のうち、文献研究については当初の計画以上に進展しつつあり、研究途上で新たな課題も浮かび上がってきた。『天妃顕聖録』に与えた『三教源流捜神大全』の影響については上述したが、後者の内容を踏まえて増幅させた記述が、次年度の考察対象とする『天妃娘媽伝』にも認められる点に注意したい。同書において拡大した媽祖の物語が東アジア世界に伝播して日本列島にも浸透したことが予想される。本州最北端の青森県下北半島にかつて天妃(媽祖の尊称)の祠があり、明治初年に神社に合祀されたときの委譲文書の中に、寛政五年(1793)撰述の『天妃縁起』が収められている。そこには媽祖による海難救助の話が語られており、これは明らかに『天妃娘媽伝』を受けたものに違いない。次年度はこのような『天妃娘媽伝』に見られる媽祖説話の拡大と伝播の足跡を検証していきたい。 現地調査に関しては、初年度に実施を断念した五島列島および天草諸島の社寺・教会において媽祖ならびに海の守護神崇拝の痕跡を探る調査を次年度において実施する予定である。媽祖像をはじめとする道教神像・聖母像等の写真撮影、聖職者や信者からの聞き取り調査、および資料収集をおこないたい。本研究の眼目である媽祖崇拝の東西交渉のありようを明らかにするうえで国外における現地調査は不可欠だが、これは感染症拡大の状況を見定めつつ慎重に準備していく所存である。
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次年度使用額が生じた理由 |
現地調査については五島列島および天草諸島の社寺・教会を中心に媽祖崇拝の痕跡を探ることを計画したが、感染症被害の拡大により実施を断念した。そこで次年度にこの調査の実施を再度計画し、旅費として支出する予定である。また、古写本複製本を物品費(図書資料費)により購入し、媽祖文献の注釈作業を継続しておこなうことで本研究の文献的基礎を構築していく予定である。
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