研究実績の概要 |
説一切有部の伝承するサンスクリット文『雑阿含』を禅観経典との関連性の上で検討するうえで、sattvaが重要な意義を有しており、相互間の関係を解明する大きな手掛かりとなっている。これは従来の研究には知られない新知見であり、阿含の修行論を内容とする『雑阿含』「道品」各支の意議内容が、古層経典である『スッタニパータ』に見られる禅定の系譜を体系的にまとめていく過程を示すものである。 この点について、降魔・成道・梵天勧請等の仏伝記事にみられる、精勤・信・智慧等の語は古層経典以来知られるが、これらは禅定に関わる要語であり、『スッタニパータ』の内容が『マハーヴァスツ』や『ラリタヴィスタラ』に改変・増広を伴い収録されている。この伝承の変遷を、阿含・ニカーヤはもとより、大乗経典や仏教文学作品にいたる展開を「sattvaについて」(『日本仏教学会年報』第86号,2022,pp.1-22(横組))に公表した。 さらに、アシュヴァゴーシャの作品について、研究分担者は、「出曜経と大智度論共通の馬鳴偈について」(『印度学仏教学研究』71巻1号, 2022, pp.45-53(横組))、「ブッダチャリタ・アンソロジ―失われた詩を梵文三啓集写本に求めて―」『佛教大学仏教学部論集』107号(2023, pp.65-84)、「灰河経(雑阿含1177経)の梵文原典と和訳―〔附〕原型カンギュルのチベット語訳テキスト―」(共著『仏教学セミナー』115号, 2023, pp.1-30(横組))、「ごみの山に終わる華鬘の喩え―第5三啓経の梵文テキストと和訳―」(共著『佛教大学仏教学会紀要』28号, 2023, pp.55-80)に発表し、禅観経典類との関連も明らかにした。
|