研究課題/領域番号 |
21K00069
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横田 理博 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (10251703)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 鈴木大拙 / アメリカ / 『大乗仏教概論』 / 法身 / アルトゥーア・ショーペンハウアー / 釈宗演 / ポール・ケイラス / ウィリアム・ジェイムズ |
研究実績の概要 |
1. 鈴木大拙の『無心といふこと』(1942年)を読み、根本的無分別、はからいのない受動性、大肯定としての「無心」の境地や、親鸞の「自然法爾」思想と禅宗の「無心」が根本上一致するという鈴木の考えを理解し検討した。また、鈴木の『仏教の大意』(1947年)を読み、大智と大悲とが仏教の「二つの大支柱」だとする鈴木の根本的立場、「分別識/般若(無分別)」の区別や、「事事無礙法界」という華厳哲学についての鈴木の見解を把握した。これらの読解により、鈴木のアメリカ滞在中の思想と帰国後の思想との連続性と変遷を理解した。 2. 鈴木大拙の『大乗仏教概論』と黑田眞洞の『大乗仏教大意』との関係や釈宗演の思想との関係について論じた論考「鈴木大拙の『大乗仏教概論』についての考察(中の二)」を執筆した。マックス・ウェーバーと鈴木大拙との接点(セントルイスの「芸術・科学会議」への参加、ウェーバーの鈴木への言及、ウィリアム・ジェイムズへの関心)をめぐって論考「鈴木大拙とマックス・ヴェーバー」で考察した。鈴木大拙の『大乗仏教概論』の思想形成がショーペンハウアーの『意志と表象としての世界』の論理を活用したものであったことを論じた、2019年の国際シンポジウムでの口頭発表をもとに、英文論考“Daisetz Teitaro Suzuki’s Outlines of Mahayana Buddhism and its Relation with Arthur Schopenhauer: Reception of Schopenhauer in Meiji Japan”を執筆した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
鈴木大拙と大拙夫人ビアトリスとの旧蔵書や書簡が保管されている松ヶ岡文庫(鎌倉市)、鈴木がアメリカで滞在していたラ・サールのThe Hegeler Carus Mansion(イリノイ州)、そして南イリノイ大学のオープン・コート文庫(the Open Court papers at Southern Illinois University)を訪れ、資料を調査し、鈴木の交友関係と思想的交流を探ることを計画していたが、2021年度は、新型コロナウィルスの流行により、鎌倉とアメリカでの資料調査はできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
1. 拙稿「鈴木大拙とマックス・ヴェーバー」で、鈴木とウェーバーとのいくつかの接点について論究したが、たとえばエーリヒ・フロムという人物もまた、その接点の一つなのかもしれないと考えている。フロムはハイデルベルク大学在学中(ウェーバーはすでに死去しているが)マックス・ウェーバーに関心をもち、 1941年の『自由からの逃走』でウェーバーに言及する。その後1950年代にフロムは鈴木と共同研究をおこない、『禅と精神分析』という成果を残した。フロムがウェーバーの著作から何を学び、鈴木から何を学んだのか、また鈴木がフロムから何を学んだのか、検討してみたい。 2. 鈴木の80歳代のアメリカ滞在時の、老荘思想への関心、エックハルトへの関心、フロムとの交流、『禅と日本文化』改訂などに着目し、鈴木の思想の変化を追いたいと考えている。 3. 新型コロナウィルスの感染状況が収束するなら、鎌倉の松ヶ岡文庫とアメリカの図書館・資料館に赴いて、鈴木の思想的交流の様子を探りたい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染拡大に伴い、資料調査のための出張ができなかったため、残額が生じている。感染が収束した段階で、所期の計画を実行したい。
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