研究課題/領域番号 |
21K00069
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
横田 理博 九州大学, 人文科学研究院, 教授 (10251703)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | 鈴木大拙 / 『大乗仏教概論』 / マックス・ウェーバー / エーリッヒ・フロム / ポール・ケイラス / アメリカ |
研究実績の概要 |
1. 相良亨の『日本人の心』(1984年)を読み直し、その「誠」論や「おのずから」論に示された日本の伝統的思想について、鈴木の『大乗仏教概論』の世界観との連続性、ウェーバーの比較宗教社会学における「世俗内的神秘主義」という類型との関連を検討した。 2. エーリッヒ・フロムの思想を学び、彼がマックス・ウェーバーの研究成果をいかに活用して自らの思想を展開したのかを確認した。ウェーバーの「禁欲的プロテスタンティズム」論を継承し、さらに、宗教改革の支持者の心理とナチスの支持者の心理との類似に着目したのがフロムの『自由からの逃走』(1941年)であった。『人間自身のための人間(Man for Himself)』(1947 年)で、「市場的態度」を「非生産的態度」の一形態として批判する議論、『愛する技術』(1956年)における“愛と資本主義”の議論についても検討した。 3. 1957年にメキシコでおこなわれた禅と精神分析についての研究会でフロムと鈴木大拙がそれぞれどのような報告をし、相互に何を学び合ったのかについて考察した。当時の鈴木の思索において『大乗仏教概論』(1907年)から何が継承されているのかという問題、ウェーバー的視座と鈴木的視座がフロムにおいてどのようにと統合されているのかという問題も考えてみた。 4. ポール・ケイラスの著作やケイラス論を読み、ケイラス思想の理解を深め、鈴木への影響関係を明らかにした。 5. 三月末にアメリカに出張。南イリノイ大学カーボンデール校のモリス図書館で、鈴木大拙や釈宗演からポール・ケイラスに宛てられた書簡について調査した。また、ラ・サールの「ヘゲラー・ケイラス邸」を訪れ内部を見学するとともに、鈴木が居住していた家屋を見学。セントルイス万国博覧会の跡地のミズーリ歴史博物館、シカゴ万国宗教会議がおこなわれたシカゴ美術館も見学した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1. 新型コロナウィルスの流行により数年延期していたアメリカ出張を年度末に実行することができた。モリス図書館での資料調査は、時間の制約上、部分的なものにとどまった。残りの調査を試みたい。 2. 鈴木大拙と大拙夫人ビアトリスとの旧蔵書や書簡が保管されている松ヶ岡文庫(鎌倉市)に出かけて調査することはできなかった。来年度以降の課題としたい。
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今後の研究の推進方策 |
1. モリス図書館に保管されている鈴木大拙や釈宗演やダルマパーラからポール・ケイラス宛ての書簡についての調査を継続したい。松ヶ岡文庫に保管されている資料についても調査したい。これらを通じて、鈴木をめぐる人々との交友関係、思想的影響関係を明らかにしたい。 2. 『大乗仏教概論』という初期の著作ののち、鈴木の思想はどう一貫し、どう変わっていくのか、検討したい。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウィルスの感染により、松ヶ岡文庫での資料調査のための出張ができなかったことと、年度末の海外出張の日数の制約などにより、残額が生じている。感染の収束が見込まれるので、今後、所期の計画を実行したい。
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