研究課題/領域番号 |
21K00070
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研究機関 | 神戸市外国語大学 |
研究代表者 |
小布施 祈恵子 神戸市外国語大学, 外国学研究所, 客員研究員 (90719270)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | マレーシア / イスラーム / 仏教 / 宗教間対話 / イスラーム化 / 宗教多元主義 / 宗教多様性 |
研究実績の概要 |
2021年度はまず現代マレーシアのムスリムと仏教徒の関係の概観的調査、およびムスリムと仏教徒の宗教間対話活動の実態調査を、関連文献の検討とオンラインによる対話イベントの聴講等を通して行った。 この結果以下の点が判明した。1)マレーシアにおいては1980年代からの国家主導のイスラーム化政策の影響で、仏教徒をはじめとするマイノリティ宗教の実践の自由が制限されていることから、国内のムスリムと仏教徒コミュニティに一部緊張関係が生じている。その一方、政府が異なる宗教コミュニティの平和的共存のために宗教間対話を推進していることから、近年ムスリムと仏教徒の対話活動は活発化している。2)ただ対話の内容には制限があり、特にイスラームの立場から他宗教の教えの真実性を認めるような見解は表明されることが極めて少ない。このような「宗教多元主義」の見解をタブー視する傾向は2010年あたりから強まっており、宗教多様性に関する国内の議論のさらなる保守化につながっていると考えられる。3)しかしこのような排他主義的風潮が広がる中、一部のムスリムの宗教学者の間では宗教多元主義ではなく、イスラーム独自の教えに即した新たな視点から宗教多様性を肯定的に評価する言説形成の試みがなされ始めている。4)また、ムスリムの宗教学者が仏教を研究対象とすることは近年まで稀であったが、ここ数年ムスリムと仏教徒の関係の歴史や相互認識、イスラームと仏教の比較等、仏教に関連する研究を継続的に行う若い世代の研究者が登場しつつある。この学術面におけるムスリム研究者の関心の多様化は、マレーシア国内の宗教多様性に関する言説に今後影響を与えていく可能性があり、注目に値する。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
COVID-19パンデミックにより予定していた現地調査が行えなかったので、宗教間対話活動の実態調査を十分に行うことはできなかったが、マレーシア国内で出版された仏教とイスラームに関する学術論文を広く検討することによってムスリム宗教研究者の見解や研究対象の推移を特定できたので、研究はおおむね順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
宗教間対話活動の詳細については、パンデミック収束後に現地で実態調査を行う予定であるが、当面は関連文献の調査と対話イベントのオンライン参加などを通した調査を進めてゆく。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19パンデミックの影響で現地調査を予定通り行えなかったため、次年度使用額が生じた。現地調査は次年度以降に行う予定であるが、当面は一部の額を引き続き関連書籍の購入にあて、文献調査を中心に研究をすすめる。
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