研究課題/領域番号 |
21K00077
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研究機関 | 龍谷大学 |
研究代表者 |
佐野 東生 龍谷大学, 国際学部, 教授 (60351334)
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研究分担者 |
久松 英二 龍谷大学, 国際学部, 教授 (90257642)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ルーミー / 神秘主義 / 比較宗教 / イスラーム / キリスト教 / トルコ / ギリシア / エキュメニズム |
研究実績の概要 |
本年度は研究代表者が龍谷大学の研究員として、コロナ等の影響で本来計画していた英国への滞在に代わって、トルコ(アンカラ大学)に2022年7月から8か月間滞在した。本研究の対象であるイスラーム神秘家ルーミーはトルコ中部コンヤで活動しており、有意義な成果を得た。文献調査では、ルーミー関係の諸史料について、アンカラ、コンヤ、イスタンブールなどの写本館所蔵の写本コピーを入手した。特にコンヤでは、国立セルチュク大学テミーゼル教授の援助で、ルーミーの講演録『七つの講話』、まだルーミーの代表作『マスナヴィー』の17世紀のアンカラヴィーによる注釈書のコピーなど貴重な史料類を入手できた。 フィールド調査ではルーミーの伝統を継承するメヴレヴィー教団のセマーなどの修行法について、コンヤのルーミー年次大祭(12月開催)などの機会に詳細に観察できた。またイスタンブールでは教団長のオケ師から同教団の教義、儀礼について複数回にわたり話を伺い、また教団のズィクル(神秘主義の祈り)集会を見学した。同時に比較宗教の研究としてギリシア正教の遺跡をカッパドキアなどで観察し、ルーミーも交流した修道院の歴史・文化への理解を深めた。イスタンブールでギリシア正教世界総主教のバルトロメオス師と面会し、ルーミーのキリスト教との交流への理解を伺い、エキュメニズムに基いてイスラームとの対話推進、および今後の仏教を含む交流について話し合った。 日本において、研究分担者の久松とともに龍谷大学で研究会を2回開催した。第一回は、阿部仲麻呂・カトリック神学院教授を招き、エキュメニズムによるキリスト教とイスラームの対話の可能性を論じた。第二回は、釈徹宗・相愛大学学長を招き、研究代表者とともに浄土系仏教の念仏と他宗教の祈りの比較について講演した。また東京ジャーミィにおいて村山木ノ実・学振PDとともにマスナヴィー講読会を数回開き、成果を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2021年度から開始された本研究課題は、これまで2年間にわたり日本内外において比較的順調に進捗している。2021年度は国内において、本研究課題が密接に関係しキリスト教とイスラームの神秘思想を比較する龍谷大学国際社会文化研究所の指定研究(本研究代表者が代表)の最終年度で、研究分担者の久松らと研究を推進した。その成果は同年度2月のシンポジウム『神秘思想における「善悪の彼岸」』で発表され、鶴岡賀雄・東京大学名誉教授らにより、ルーミーら両宗教の神秘思想における否定神学、悪魔論と倫理観について共通点、相違点が詳細に論じられ、本研究課題に貢献した。 2022年度は研究代表者がトルコに滞在し、本研究課題の目的である、ルーミーのキリスト教に対する実践的神秘思想の解明、そのクルアーンなどイスラーム全体での位置づけ、またギリシア正教神秘思想との比較について進捗があった。文献調査とともに現地専門家、メヴレヴィー教団関係者との複数回の話し合い、意見交換で、ルーミー思想がそのイエス観、キリスト教徒観を基にギリシア正教など他宗教に対し理解を示していた点、それが現代まで両宗教の対話に影響している点が解明された。 これらの調査を通じて明らかになったのは、ルーミー思想において、神と人を断絶させず、根源的一者の万物への顕現を軸とした、クルアーンを含むイスラームに対する神秘主義的解釈によって、イスラームを中心としながらキリスト教なども含みうる包括主義的な多宗教共生への志向性がある点である。これに関連し、ギリシア正教世界総主教らと、パラマスなどギリシア正教神秘思想との関連性、共通性について話し合い、今後両宗教の神秘思想を基とした包括主義の立場からの対話の可能性についての手がかりを得た。 これらを反映し、現在、龍谷大学国際社会文化研究所叢書として、『キリスト教とイスラームの接点』との共著を執筆編集中である。
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今後の研究の推進方策 |
本研究課題は2年にわたりルーミーの実践的神秘思想とキリスト教の関係を中心に進捗してきた。今後、ギリシア正教神秘思想との関係についてより具体的に比較研究を推進していく。これを通じ、ルーミー思想が現代における宗教間の相互理解、対話のためどこまで評価しうるか、また宗教対話の理論として批判されてきた自宗教中心の包括主義について、実践的立場からの再評価につなげる。その一環としてキリスト教のみならず仏教との関係も視野に入れていく。 まずルーミー思想において、イスラームの神秘主義的再解釈と他宗教も含みうる再統合の可能性について、トルコで得た写本類を含む『マスナヴィー』、『大詩集』、『七つの講話』など著作の分析を通じより究明する。2023年度はルーミー専門家をトルコから招へいし研究講演会を開催し、イスラームを軸とする包括主義の可能性について意見交換する。 ギリシア正教について、久松と協力し、パラマスらの神秘思想と実践をイスラーム側と比較し、その一環として2023年2月にギリシア・トルコ現地調査を行う。ギリシア各地の修道院を調査し、そのイエスの祈りなどの修行法について究明する。イスタンブールでギリシア正教世界総主教を再訪し、両宗教の神秘思想に基づく、仏教も含めた宗教間対話について話し合う。 これらを通じ、ルーミー思想、そしてエキュメニズムにみられるように自宗教主体ではあるが他宗教に理解を示し、包摂をめざす包括主義の意義を再考する。この成果は、2024年度のシンポジウムで報告され、現在研究代表者と久松が編集する龍谷大学国際社会文化研究所叢書、また同大学世界仏教文化研究センター叢書の2冊に反映させる。これにより、従来の宗教多元主義が実際の信仰の立場から抱える限界を、ルーミー思想などに基づく包括主義が越えられるかを問う。この成果は数年後に研究代表者によるルーミー関係の単著で公表される予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額100,000円は、研究分担者(久松)に割り振られた研究費の額で、これまで研究遂行上必要がないため、使用しなかったものである。この額について、2023年度の助成金で予定されている海外研究調査(ギリシア)に研究代表者とともに久松が参加し、全額使用する計画である。
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