研究課題/領域番号 |
21K00092
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴史 北海学園大学, 人文学部, 教授 (70445138)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | ユダヤ学 / アブラハム・ガイガー / イマヌエル・ヴォルフ / 歴史主義 / プロテスタント神学 / フェルディナンド・クリスティアン・バウル / マルティン・ブーバー / 『我と汝』 |
研究実績の概要 |
今年度は、アブラハム・ガイガーの主著や講義録の分析を通じて、彼のユダヤ学の構造の一端について明らかにした。これに付随して、マルティン・ブーバーの『我と汝』にあらわれるユダヤ学批判の諸相についても解説した。 第一に、ガイガーが大きな影響を受けたプロテスタント神学者F. C. バウルの歴史批判的方法論の受容と批判の内実について明らかにした。ガイガーは、バウルから大きな影響を受けながらも、バウルの反ユダヤ的ユダヤ教理解(古代におけるユダヤ的キリスト者と異邦人キリスト者の対立から後者の優位に帰着する歴史観)には大きな反発をおぼえた。結果的に、ガイガーはユダヤ教の内的な発展を強調する、バウルとは異なる新しいユダヤ教理解を打ち出したと判断できる。 第二に、ガイガーとイマヌエル・ヴォルフのユダヤ学理解を比較することで、両者の共通点と違いを解明した。ガイガーにとってユダヤ学はユダヤ教の「精神的生」という形而上学的原理を解明する課題を担った学問だが、ヴォルフのユダヤ学理解にはこのような傾向は希薄である。しかし、両者ともユダヤ教の発展という歴史的視点を共有しており、その意味においてユダヤ学はすぐれて歴史批判的な学問として構想されたと考えることができるはずである。ガイガーに関して、これまでの研究史の再検討も含めて、これらの二点を中心に考察できたことは、今年度の重要な研究成果だったと判断できる。 第三に、ブーバーの『我と汝』におけるユダヤ学批判について解説した。ブーバーは、ユダヤ教の神秘主義的側面を適切に扱わない合理主義的ユダヤ学に批判的だった。彼の『我と汝』は、対話を基礎にした新しい人間学をもたらした記念碑的著作であるが、同時に当時のコンテキストを踏まえれば、そこにはユダヤ学批判ならびにそこから導き出される19世紀的ユダヤ教理解を修正するという目的も含まれていたと言えるはずである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
19世紀ドイツのユダヤ学、そしてガイガー研究はわが国においていまだ本格的な研究成果のない領域だと言ってよい。それゆえ、より確実な成果を出すためには慎重な研究が求められると考えられる。とくに(1)ガイガーのユダヤ教理解に潜んでいる形而上学的原理の解明、(2)その原理の内実を明らかにするための彼のユダヤ学の構造分析、(3)彼のユダヤ学が成立するうえで大きな影響を与えたプロテスタント神学の役割を丁寧に考察することが必要である。これらのことを踏まえて、今年度は自己評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度に引き続き、イマヌエル・ヴォルフの文献学的なユダヤ学とガイガーのユダヤ学を比較し、ガイガーの思想における形而上学的原理を明確にする。両者の比較によって本研究は、これまで不明瞭だったガイガーの形而上学的・神学的傾向を一層明らかにすることができるだろう。また、令和4年度は海外での資料調査・学術交流を予定しているが、感染状況を慎重に判断しながら研究を進めたいと考えている。
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