研究課題/領域番号 |
21K00092
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
佐藤 貴史 北海学園大学, 人文学部, 教授 (70445138)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2025-03-31
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キーワード | アブラハム・ガイガー / ユダヤ人文化学術協会 / エドゥアルト・ガンス / イマヌエル・ヴォルフ / ユダヤ学 / ヨーロッパ / キリスト教 / ヘーゲル |
研究実績の概要 |
今年度はアブラハム・ガイガーのユダヤ学が成立する上で重要な学問史的背景であるユダヤ人文化学術協会の方針や世界観について主に考察し、加えて昨年度の学会発表の原稿を改訂し、ガイガーのユダヤ学の構造に関する研究結果の一部として公表した。 第一に、ユダヤ人文化学術協会の創設メンバーであるエドゥアルト・ガンスの会長就任演説を詳細に分析した。ヘーゲル哲学から大きな影響を受けたガンスは、ユダヤ人はヨーロッパにみずからを編入すべきであり、それは独立を維持しながら全体に奉仕することを意味すると考えた。同時に、注意すべき点はこのようなヨーロッパへの編入はキリスト教への改宗を意図しないということである。むしろ、ガンスにとってユダヤ学はキリスト教の偏見を取り除くための必要な学問だったのである。 第二に、第一の点をガンス以上に鋭く認識していたのがイマヌエル・ヴォルフであったことを解明した。ヴォルフは協会の学術雑誌に「ユダヤ学の概念について」を寄せた。それを読むと、ヴォルフにとってユダヤ学は時代や現実に限定されない学問であるという崇高な理念をもっているだけではなく、ユダヤ教やユダヤ人の不平等な政治的状況を変え、彼らのアイデンティティを「時代精神」にあわせて刷新していくという実践的機能を保持していたことがわかる。 第三に、上記の二点を踏まえると、協会に集ったユダヤ人は近代ユダヤ人がおかれていた不平等な政治状況を協会の活動やユダヤ学によって改善しようとしたが、同時に彼らはユダヤ学それ自体の崇高な学問性に身を捧げるような二つの方向性のあいだにいたと考えることができるのである。 最終的に、これらの研究成果はガイガーがみずからのユダヤ学を構想する上で意識したユダヤ教と近代の関係を先取りしており、彼のユダヤ学の学問史的背景を形成していると判断できる。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
アブラハム・ガイガーのユダヤ学の内実を明らかにするためには、その前史であるユダヤ人文化学術協会の方針と世界観を明らかにすることが不可欠である。基本的にわが国におけるユダヤ学研究の蓄積はきわめて限定されているが、協会の活動に関しては法学やドイツ文学の分野で一定の蓄積がある。しかし、ユダヤ学との関連のなかで協会の活動を分析した研究はなかったので、ガイガーのユダヤ神学部構想のコンテキストを考察する上でも重要な成果を出せたと判断し、今年度の自己点検評価を「おおむね順調に進展している」とした。
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今後の研究の推進方策 |
令和5年度に引き続き、ガイガーのユダヤ学の構想を文献学的に明らかにする。令和6年度は本研究課題の最終年度に当たるので、これまでの研究を総合し、当時のユダヤ学の成立状況をコンテキストとしながら、ガイガーのユダヤ学の内実を解明する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ対応に関する政策が大きく変わったが、まだ何がどこまで変わったかが見通せない状況だったことに加えて、国内外の調査に関わるさまざまなものの値段が高騰し、全体の様子を見ながら計画を進めていた。令和6年度は繰り越された研究費とあわせて、国内外の調査を確実にできるように計画している。
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備考 |
「アブラハム・ガイガーのユダヤ学」(『宗教哲学研究』第41号、宗教哲学会、2024年3月)、pp. 131-132.
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