研究課題/領域番号 |
21K00093
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研究機関 | 北海学園大学 |
研究代表者 |
鈴木 英之 北海学園大学, 人文学部, 教授 (60367000)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 了誉聖冏 / 偽書 / 仮託文献 / 仏教 / 浄土宗 / 鎮西流 / 夢 / 正統 |
研究実績の概要 |
了誉聖冏(1341-1420)は、浄土宗鎮西流白旗派の学僧だったが、仮託文献を多用して教学を形成していた。聖冏は、作者を祖師たちに擬した仮託文献を多用して自らの正統を示した。さらに聖冏の中心的な教義「二蔵義」は菩提流支仮託『麒麟聖財立宗論』に依拠するなど、教学形成においても仮託文献から思想的な影響を強く受けていた。 江戸時代になると、鎮西流が浄土宗の主流派となったころから宗学の根幹となり、浄土宗の僧侶育成プログラムである檀林教育において重要視された。だが仮託文献を多用する学問スタイルは、その偽の要素が徐々に批判の対象となり、明治時代は宗の根幹から外されることになった。 本研究は、聖冏が依拠した仮託文献を偽書・偽経として等閑視するのではなく、聖冏教学を構成する重要な要素として位置付け、その思想的特色を解明し、最終的に中世浄土教学における仮託文献の位置付けを明らかにすることを目的とする。 具体的な研究内容は、①浄土宗における仮託文献の調査・解読、②聖冏浄土教学への仮託文献の影響と教理上の意義の解明、③聖冏の直弟子・酉誉聖聡の仮託文献受容との比較検討の3つである。 上記のうち、令和4年度は①を中心に進め、聖冏教学における重要典籍『麒麟聖財立宗論』の読解研究を行った。また聖冏の祖師としての伝記形成過程や、浄土宗における夢の位置付けについて検討を行うなど、浄土宗の正統意識の形成について論じた。 以上の検討から、聖冏教学の多面性と、それを取り巻く言説・学問世界の一端について明らかにすることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和4年度は、浄土宗における仮託文献の調査・解読を中心に行い、おおむね順調に推移している。 菩提流支仮託『麒麟聖財立宗論』の研究を、名越派学僧の良定袋中『麒麟論私釈』を参考に継続して行ったまた関連する作業として、常陸大宮市編さん委員会編『常陸大宮市史』資料編2 古代・中世「第2部 人物 第2章 了誉聖冏」(常陸大宮市)では、聖冏の伝記を概観すると同時に、近世から現代に至る聖冏伝を提示し、祖師としての聖冏伝形成の過程を示した。 また拙稿「中世浄土宗における正統と夢」(『北海学園大学学園論集』189・190合併号)では、夢による正統の証明について論じた。浄土宗では、宗祖法然が夢中にて中国の浄土祖師・善導との面授口決があったとする。すなわち夢が正統を示す根拠とされているのだが、浄土宗では、法然以降も夢中による仏や浄土祖師(阿弥陀仏・善導・法然など)たちとの交感を行い、自らの正統性を繰り返し主張していたことを明らかにした。中世における夢は仮託文献と近しい機能をもつものであり、聖冏の学問を論じる上でも有益な視点を得ることができた。 さらに聖冏が重要視した両部神道書『麗気記』の図像解釈にも取り組み、鈴木英之「密教神話の成立と展開― 真福寺蔵『法釼図聞書』をめぐって―」(『北海学園大学 人文論集』74)では、『麗気記』所収の図像が全く別の文脈で用いられ、高野山大塔建立の縁起となっていることを明らかにした。 また大阪大学にて覚城院聖教調査を行うなど、外部調査も徐々に再開することができた。
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今後の研究の推進方策 |
今後は上記の成果をもとに、外部機関の調査を含めて研究を進展させる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
外部調査のための旅費を計上していたが、新型コロナウィルス流行の影響により、計画通りに調査を行うことができず、次年度使用額が生じた。次年度以降は、新型コロナウイルス感染症が5類に移行したことから、計画通り外部調査を遂行することができると考えられる。
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