研究課題/領域番号 |
21K00095
|
研究機関 | 國學院大學 |
研究代表者 |
木原 志乃 國學院大學, 文学部, 教授 (10407166)
|
研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
|
キーワード | 西洋古代哲学 / 古代ギリシア医学 / 医学思想史 / ヒッポクラテス / ガレノス / 全体論 / 病 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、「自然環境の中で生きる人間と病の関係」について、古代ギリシアの医学思想における「全体論」(Holism)という枠組みから考察した。ヒッポクラテス派の医学説においては、身体を還元主義的に捉えるのではなく、自然全体に目を向けて病を語る必要性が説かれている。そこで、身体・環境・宇宙、そして地域に広がった病の考察(エピデミアイ)において、このような全体論がどのようなかたちで示されているか、また当時の哲学的方法論とそれらがどのような関係であったのかに関して、個別の医学及び哲学テキストを検討した。その研究成果は2022年3月3-5日にオンラインライブ形式で行った「ギリシア・ローマ・アラビア医学哲学研究会」にて、「ヒッポクラテス医学におけるエピデミアイと全体論―哲学的方法論との関連から見た病の環境的要因」という題目で発表した。この研究会は近藤智彦氏(北海道大学)主催で、安田将氏(北海道大学)、土屋睦廣氏(日本大学)、矢口直英氏(東京大学)、福島正幸氏(エディンバラ大学)、渡邉真代氏(ボローニャ大学) による充実した研究発表がなされた(Zoomでの参加者60-80名ほど)。この研究会での交流を通して医学哲学の歴史を幅広い視野に立って見直すことができた。また他にも、2021年6月開催の西洋古典学会のシンポジウムコメンテーターとして古代医学における身体論や体育術についてヒッポクラテス、プラトン、ガレノス、ピロストラトスの具体的なテキストをあげながら報告した(Cf. 2022年3月発行の『西洋古典学研究』69)。さらに、古代ギリシアにおける「夢」をテーマに、古代医学における合理性的側面と不合理的側面の関係についての研究を行った(京都大学「西洋古典学連携共同研究会」の活動として2022年1月以降数回行われた報告会に参加。その成果は2022年西洋古典学会のフォーラムにて発表予定)。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
今年度の目標であった、ヒッポクラテス医学文書の『流行病』及び、さらには環境医学を論じた『空気、水、場所』も取り上げ、自然環境と病の関係について考察した。また、宗教的神聖性とも矛盾せず医学が成立していたことの意義を明らかにし、「科学的合理性」というレッテルを張られたギリシア医学の捉え方を見直すことができた。ガレノスの著作に関しても、ヒッポクラテスと退避させながら検討を加え、歴史的展開についても辿ることができた。
|
今後の研究の推進方策 |
今後の研究は、引き続き古代医学テキストを精査し、とりわけ初期ギリシアのヒッポクラテス医学文書に見られる「流行病」(エピデミアイ)の記録文書を取り上げ、さらにはそれらをローマ期のガレノスの頃に概念化されたグローバルな「流行病」(パンデミアイ)の考察も比較検討しながら、病の恐怖と向き合う当時の人々に配慮した医学テキストの語りの倫理性や、生きる環境の中で病と共存するための知のあり方を探りたい。さらに、国外の研究動向にも目を向けながら、医術とレトリックの問題や、医学思想における非合理的側面、神的側面等の問題についても考察を進めたい。
|
次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度は前年度に続き、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、海外への渡航制限がかかり、国内外の学会等もズーム参加となり、また大学図書館も利用制限がかかっていた。それゆえ旅費に計上していたものは全て書籍購入に当てた。そこで次年度以降の研究及び学会発表の準備のために必要な書籍を取り揃えることに努めたが、とりわけ近年の古代医学関連図書は他の分野と比べ比較的高額の傾向が見られ、また範囲を広げて渉猟したため当初の予定より多くの支出となった。
|