研究課題/領域番号 |
21K00096
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研究機関 | 上智大学 |
研究代表者 |
堤田 泰成 上智大学, 外国語学部, 研究員 (30897822)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 宗教 / 神秘主義 / シュライアマハー |
研究実績の概要 |
1年目にあたる令和3年度は、まずショーペンハウアーにおける新プラトン主義思想からの影響関係を解明するための足掛かりとして、ショーペンハウアー哲学と宗教・神秘主義との関係性を深く掘り下げることに主軸を置いて研究を進めた。とりわけショーペンハウアーのベルリン大学時代におけるシュライアマハー「キリスト教時代の哲学史」講義(1812年)の聴講録に注目し、そこに見られる若きショーペンハウアーの注釈やコメントを参照することで当時の彼の宗教・神秘主義理解の詳しい検討を行った。 具体的な成果として、ショーペンハウアーの遺稿にのみ見出される「真の批判主義」や「より善き意識」といった初期思想が、カントの超越論哲学に立脚しながらも同時にプロティノスやベーメからの影響のもとに神秘主義的な性格も強く帯びていることを、聴講録の記述から明らかにすることができた。またシュライアマハーの本講義を通じて、ショーペンハウアーが極めて早い時期から新プラトン主義者たちの思想に親しんでいたこと、さらに彼の主著『意志と表象としての世界』(1819年)における「意志の否定」論の前身となる「より善き意識」が、本講義におけるシュライアマハーの「比較的高い意識(より高い意識)」という概念から着想を得ていた可能性があることを指摘することができた。 本年度はその他に、ショーペンハウアーと西洋神秘主義に関する文献の収集および調査に努め、その成果の一部をオンラインジャーナルなどで公表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
「研究開始時の研究の概要」にも記したように、本研究の課題はショーペンハウアーを新プラトン主義思想の系譜に連なる哲学者として理解することにより、彼を狭義の超越論哲学者として理解してきた従来の研究の枠組みを超えて新たなショーペンハウアー像を描き出すことにある。そのため、彼の超越論哲学において宗教や神秘主義がどのような位置づけにあるのかを明らかにすることが今後の研究を遂行していく上での最優先課題であったが、その意味においても本年度の研究で「真の批判主義」や「より善き意識」といったショーペンハウアーの初期思想のうちに神秘主義的な性格をはっきりと確認できたことは大変貴重な収穫であった。従来の研究において、これらの初期思想はもっぱらカントの超越論哲学の枠組みに従って理解されていたが、本年度の研究成果はこれに見直しを迫るものであったと評価できる。この点をさらに突き詰めることは、その後のショーペンハウアーの思想的発展において超越論哲学と新プラトン主義的なヘノロジー(一者論)との両立がどのように果たされたのかを考察していくにあたっての具体的方策になり得ると予想される。
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今後の研究の推進方策 |
本年度の研究成果を足掛かりとして、次年度以降はショーペンハウアーと新プラトン主義思想との関係をより具体的に検討していく。とくに新プラトン主義の特徴である「一者」・「発出」・「還帰」という三つのモチーフがショーペンハウアー哲学においてどのように展開されているのかを解明することが、当面の優先課題となる。これに加えて、引き続きショーペンハウアーの超越論哲学と宗教・神秘主義との関係性についての分析も進め、ショーペンハウアーにおける新プラトン主義思想からの影響をより幅広い視野から明らかにすることを試みる。そのためにも、次年度以降も継続して資料の収集と読解作業に努め、研究の成果を国内外に向けて積極的に発信していくことで、研究のより一層の拡充を図っていくことを目指す。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染拡大の影響により、当初対面開催を予定していた学会・研究会がすべてオンライン開催に移行したために旅費の支出がなくなった。その余った分を一部、物品(研究書籍)の購入に充てたが、それでも未使用分が生じたため次年度使用とすることにした。感染の拡大が落ち着きを見せつつあるため、次年度以降は対面開催の学会・研究会も増えて当初の予定通りの旅費を支出することが予想されるが、予算の執行については引き続き感染状況を注視しながら柔軟に対応していく。
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