フランス中世末期の図像や装飾の意味・機能は未解明のままにあるものが多い。従来の様式論や図像学では、この時代の美術全般に認められる聖俗の混淆、図像典拠の多様性、様式の汎ヨーロッパ性を十分に理解することは不可能なのである。本研究では、15世紀のブルターニュ公家のために制作された祈祷書を多角的に検討することで、キリスト教図像の意図的な改変や、世俗図像の象徴機能によって子孫繁栄祈願の表象が様々に生成されていることを明らかにした。それは写本の制作背景の特定に有用な視座と方法論の提示に繋がっただけではなく、隣接しない文化間の比較的視座が古の文化・社会の研究に非常に有効であることを証明することにもなった。
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