研究課題/領域番号 |
21K00106
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
濱田 真 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50250999)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | ヴィンケルマン / アレゴリー / 輪郭線 / 観想学 / 可視性と不可視性 / 情動性 / ラーヴァーター / ヘルダー |
研究実績の概要 |
本年度は、ヴィンケルマンのアレゴリー理解の特徴を、彼の『絵画と造形芸術におけるギリシア美術模倣論』(1755)および『アレゴリー試論』(1766)を中心に探った。それと並行して、彼の議論が18世紀後半のドイツでどのように受け止められたかについて、メンデルスゾーン、レッシング、ヘルダー、モーリッツに注目して考察した。ヴィンケルマンはアリゴリーの働きを多様な文脈で論じており、アレゴリーと象徴およびヒエログリフの違いについて厳密な規定は行っていない。このようなヴィンケルマンのアレゴリー理解に対してはさまざまな反応が見られた。具体的には、芸術ジャンルの違いにおけるアレゴリーの働き、時代・地域・民族によるアレゴリーの捉え方の相違、芸術作品の美とアレゴリーの関係等について多様な議論が展開していくことが確認できた。 さらに本年度は、ヴィンケルマンの芸術論において重要な意味を持つ「輪郭線Kontur」の問題についても考察を進めた。ヴィンケルマンは、不可視のものを可視化する働きだけでなく、情動的な作用も輪郭線に見出し、美術作品における輪郭線の位置づけについて論じたが、ラーヴァーターの『観想学断章』(1775-78)およびリヒテンベルクのラーヴァーター批判を探ることで、ヴィンケルマンの輪郭線理解が観想学(Physiognomik)と情相学(Pathognomik)の両方の要素を備えていることが確認できた。また、輪郭線についての議論がアレゴリーの議論と密接に関わっていることも推測できた。一方、ヘルダーの『彫塑』(1778)では、ヴィンケルマンの輪郭線についての議論が批判的に捉えられて新たな触覚論が提示されており、輪郭線が感覚論との関係から論じられる場合があることも明らかになった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
本年度は、ヴィンケルマン受容の特徴について、特にアレゴリーと輪郭線の問題に焦点を絞って考察したが、思想家によって受容の仕方が多岐に渡り、ヴィンケルマン理解が一方向に収斂するのでなく、いくつもの方向へと分化していく状況が確認できた。またヴィンケルマンの議論を大きく方向転換させる事例も明らかになった。特にヘルダーは、可視性・不可視性の問題との関係で論じられるヴィンケルマンの輪郭線の議論を、触覚の問題という別な観点から捉えなおしており、ヴィンケルマンの理論を批判的に新たな方向へと展開している。この点については、本年度に公表した研究論文のなかで指摘することができた。ヴィンケルマン受容の重層性について考察を進めることで、来年度の研究の足掛かりを得ることができた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度と2022年度に行った研究で、ヴィンケルマンの古代ギリシア理解がひとつの方向に収斂していくのではなく、受容者に応じて多様な方向へと分化していく点を確認することができた。今後もその詳細を個別の思想家に即してより具体的に明らかにしていきたい。また、ヴィンケルマン受容が古代ギリシアイメージ形成とどのように結びついているのかについても考察を進めていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍の影響で、計画していたドイツでの調査を行うことができなかったため。本年度は、これまで日本で進めてきた資料分析を補うために、ドイツでの資料調査を行う予定である。
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