研究課題/領域番号 |
21K00107
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研究機関 | 東京大学 |
研究代表者 |
沖本 幸子 東京大学, 大学院総合文化研究科, 教授 (00508278)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2026-03-31
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キーワード | 翁 / 民俗芸能 / 能 / 父尉 / 鐘巻 / 山伏神楽 |
研究実績の概要 |
主に民俗芸能研究に軸足を置きつつ、猿楽の古形と能の成立について改めて考えるという姿勢で研究を進めた。 一つは、能の「翁」の発生について、古形の三人翁(翁・三番叟・父尉)の内、ほとんど研究が進んでいない「父尉」の詞章の変遷を、民俗芸能、能の各種伝書、現在の能に至るまで視野に入れながら、その変遷と原型をたどった。「父尉」は、観阿弥時代にはすでに特殊な機会を除いて上演されることのなくなっていたこともあり、あまり研究が進んでいないが、早くに表舞台から消えたからこそ古形が保たれている可能性も高く、実際、申請者のこれまでの研究の中で、乱拍子で終わる形式などに「翁」の古形が保たれていることもわかっている。今回、詞章の展開を追いかける中で見えてきたのは、ほかの翁たち(翁・三番叟)の詞章からは消されていった「松」の詞章が、「父尉」の乱拍子にだけは生き残っていた点で、「松をはやす芸能」としての「翁」の祝言性など、翁や三番叟だけからは見えにくい「翁」のありようを確認することができた点は大きな収穫である(「父尉を読み直す」) もう一つは、能「道成寺」と同じ伝承に基づく先行芸能とされることの多かった東北の神楽(山伏神楽、能舞、番楽など)「鐘巻」の伝承をたどり、神楽で繰り返される「鐘の緒」という言葉を手掛かりに、能とは別の伝承(女性の罪が露見して鐘の緒に巻き取られる)が背景にある作品であることを明らかにし、一方で、能「道成寺」の能としての特殊な要素が、神楽能「鐘巻」に共通する点が多いことに注目し、神楽能を視野に入れることで、能楽大成以前の猿楽の姿が見えてくる可能性を示唆した(「伏流する伝承」)。 さらに、コロナ禍でしばらく自由にできなかった民俗芸能のフィールドワークも再開できたことも非常に大きく、民俗芸能研究を強化していきたい。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
民俗芸能に軸足を置きながら、能の成立について考えているが、これまで大雑把にしか とらえられていなかった両者の関係をかなり踏み込んだ形で捉えられつつあり、民俗芸能を追いかける中で、能の「翁」だけでなく、能という芸能の枠組み自体がどのように生まれたのか考えるきっかけにもなっている。
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今後の研究の推進方策 |
ようやくコロナも収まり、フィールドワークを再開できるような状況にもなってきたので、民俗芸能研究を強化しつつ、「翁」をはじめとする猿楽の古形と能の成立の問題に、改めて切り込んでいく所存である。 また、「翁」の「父尉」を追いかける中で浮上してきたのは「松」と猿楽の問題で、能の「翁」の詞章が慎重に松を排除する形で作られてきた様子が浮かび上がってきた。これについては、能における祝言、日本芸能における祝言全般を視野に入れながら、なぜ「翁」から松が排除されてきたのかについても広く考えていく所存である。
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