研究課題/領域番号 |
21K00108
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研究機関 | 信州大学 |
研究代表者 |
小野 貴史 信州大学, 学術研究院教育学系, 准教授 (10362089)
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研究分担者 |
山本 亮介 東洋大学, 文学部, 教授 (00339649)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 理想的鑑賞者説 / 美的価値判断 / 比較聴取構造 |
研究実績の概要 |
本研究は、音楽芸術と言語芸術におけるフィクション(虚構)としての時間軸上で展開される《語り手》と《代理話者》の構造を比較分析し、分野横断的な美学的構造基盤を打ち出すことを目的に定めている。また、文学作品内では作者は架空の《語り手》を設定し、読者は《語り手》の語りを現実時間に聞くという双方向的構造が成立するが、音楽作品は楽譜を再現する「演奏者」という《代理話者》が介在することによって、虚構の時間が再び現実の時間へと引き戻される現象が起こる点に着目して研究を進めている。2021年度は、音楽芸術における作曲者・演奏者・鑑賞者の虚構的時間性の位置づけから、鑑賞者サイドの美的個性を認めるジェロルド・レヴィンソンの理想的鑑賞者説を再検討した。その上で理想的“演奏者”=《代理話者》の学説的展開可能性の検討課題が浮き彫りになった。 また、音楽作品の再現性(演奏)が楽曲の聴取側面に与える影響を分析することを目的とした研究を行い、“音楽作品間”(刺激間要因)と“音楽作品内=演奏”(刺激内要因)の2つの領域を対象とした分析を実施した。その結果、Quasi-Hearing領域を有する聴取階層(音楽の専門教育を受けた母集団)は、楽理構造や技術的側面やフレーズ構成側面を中心に音楽作品を聴取していることが立証された。初めて聴く楽曲でも、既知の楽曲でも聴取反応に差がなく、演奏者が介在しない楽曲の原型(=楽譜)に対する評価は,演奏(=再現性)の差を超えた別の階層に位置しているという結果を得ることができた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度はCOVID-19の流行による移動制限で、研究目的であった音楽芸術(研究代表者)と言語芸術(研究分担者)との文献資料を共有した意見交換と統合的理論分析が困難な状況にあった。そのために、両分野における理論的融合の側面では「やや遅れている」と判断した。 しかし、理想的鑑賞者説に基づく演奏者のポジションの学術的な疑問点を発見し、学術論文「音楽作品の再現性が楽曲聴取に与える影響範囲-音楽専門家層を対象としたQuasi-Hearing 領域の分析-」(信州大学教育学部研究論集第16号)で発表するなどの成果は得られた。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度に口頭発表した理想的“演奏者”の学説的展開可能性を精査するとともに、Christopher Mag Uidhirが提唱したFailed-artという新しい美学概念(Mag Uidhir, "FAILED-ART AND FAILED ART-THEORY", Australasian Journal of Philosophy、Volume 88, 2010 - Issue 3 pp. 381-400)を研究対象に据えて課題を推進する方策である。また、COVID-19の感染状況に左右されない、非対面でのオンラインシステムでの研究協議ネットワークを築くことを念頭に置いて推進方策を立て直すことが急務である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19の感染拡大の影響で参加予定だった学会が全てオンライン開催となったため、旅費が生じなかった。同様に、行動規制によって文献調査や資料収集のための旅費も発生しなかった。次年度は非対面でのオンラインシステムでの研究協議ネットワークを築くことを前提に、当初予定になかった物品費等の経費が生じることも念頭に置いている。 2021年度に収集予定だったが上記理由で入手不可能だった資料は、リストアップ済である。
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