研究課題/領域番号 |
21K00109
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研究機関 | 大阪大学 |
研究代表者 |
今泉 秀人 大阪大学, 大学院人文学研究科(外国学専攻、日本学専攻), 准教授 (00263343)
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研究分担者 |
好並 晶 近畿大学, 総合社会学部, 教授 (90510503)
阿部 範之 同志社大学, グローバル地域文化学部, 教授 (20434681)
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研究期間 (年度) |
2021-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | 中国 / 文化大革命 / 映画 / 文学 / 小説 / 物語論 / 集団的記憶 / メディア |
研究実績の概要 |
2022年度の研究実績として、研究分担者の阿部範之(同志社大学)には、21世紀の中国語圏映画を考察の対象とした「主旋律/IP映画としての『タイガー・マウンテン』――2010年代の徐克監督作を巡って」(『GR――同志社大学グローバル地域文化学会 紀要――』第19号、1-33ページ)がある。また研究分担者の好並晶(近畿大学)には、「謝添『謝添口述 我的悲喜人生』」(154-155ページ)、「胡蝶『胡蝶回憶録』」(128-129ページ)、「孫瑜『銀海泛舟―回憶我的一生』」(64-65ページ、いずれも『中国20世紀自伝回想録改題集』)がある。これらはいずれも20世紀の中国映画にかかわる重要人物の伝記、回想録を詳細に紹介・解説したものである。研究代表である今泉秀人(大阪大学)は、同上書『中国20世紀自伝回想録解題集』に、以下の項目を分担執筆した。執筆した各項目は、「沈従文『従文自伝』」(92-92ページ)、「蕭乾『未帯地図的旅人』」(132-133ページ)、「何兆武『上学記』」182-183ページ、「呉念真『這些人,那些事』」(244-245ページ)である。また、研究報告として、「学術としての新文学――朱自清(1898-1948)の場合」(研究集会「古典から近代へ 清代と民国の学問」、大阪大学、2022年8月10日)、「ミャオ族幻想――沈従文と石啓貴」(青島・重慶・湘西合同研究会、日本女子大学、2022年9月4日)、「呉濁流『アジアの孤児』に見る言語の地層」(中国文芸研究会1月例会、関西学院大学、2023年1月29日)を行った。 いずれもそれぞれに、中華民国期から21世紀の中国語圏の社会と文化表象、そして文学テクストや映画などのメディアをめぐる基礎的あるいは発展的な内容をもつものであり、本研究の基礎・発展研究期間中に必要な研究実績として今後の本研究の発展・完成に裨益するものである。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
2022年度における進捗の状況は、概ね順調に推移したと言える。今年度は中間年度として、本研究の具体的な計画をメンバー相互で確認しつつ、実際の作業を行なった。研究課題として「文革映画史」構築という非常に大きな目標を持つ本研究ではあるが、3年間の科研プロジェクトを「文革映画史」構築のための基礎的研究期間と位置づけている。そして研究計画に則り、1)わたしたちの文革映画史構築の理論的な枠組みを考え、実行する上で、現在最も重要な先行研究とみなしている、許子東『重読「文革」(「文革」をもう一度読み直す)』人民文学出版社、2011年(定本)の輪読を行い、同時にその内容を詳細に検討し、疑問点やこの本から得られる、私たちの映画研究に必要な方法や視点を抽出し整理しつつ、同時に訳文を作成すること、2)文革を描いた映画作品およびその原作となった小説などの文学作品に関する基礎研究的文献リストを作成すること、の二点を具体的作業として行った。 具体的には、当該書の、「序」担当:今泉、「導論」担当:今泉、「第一章 “災難”的前因与征兆(「災難」の原因と前兆)」担当:今泉、「第二章 “災難”的降臨;方式(「災難」が降りかかる方法)」担当:阿部、「第三章 考験与拯救(試練と救い)」担当:好並、の各部分の下訳を2022年12月までに作成した。さらに、「第四章 反思与後悔(反省と後悔)」担当:好並、「第五章 重読“文革”的不同方法(「文革」を再読するいくつかの方法)」担当:今泉、「結論」担当:阿部、を2022年3月に作成した。以上の翻訳作業は、当該書全体(総291ページ)のおよそ75パーセントに相当する。 また、文化大革命を描いた映画作品、およびその原作となった小説などの文学作品に関する対応関係や出版年次、発表媒体、日本語訳の所在などの各データを一覧にまとめる作業も行った。
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今後の研究の推進方策 |
今後の研究の推進方策について、最終年度の推進方針については、上記の2)で述べた「文革映画」研究の対象となる映画作品を年度中に確定し、ここで確定された個別的な映画作品の内容の重要性を、本研究の理論的枠組に沿ってランク付けることを目指す。さらに余力があれば、ランク付けした映画作品の内容をなんらかの基準によって整理することを目指す。 次に、本研究の推進において最も重要かつ骨の折れる作業である、1)の許子東『重読「文革」』の読解、翻訳作業が今後の中心的な課題となる。 本年度は、当該書のそれぞれの章の翻訳担当区分に従って、各メンバーが翻訳原稿の作成を進め、ときに応じて成員相互による内容の検討および訳文の検討を行う。そして、年度内に、およそ一書全体を翻訳することを目標と定める。特に、この本の本文に記されている(文革映画の原作となった)小説の、物語論を用いたテクスト分析に関する検討を重点的かつ徹底的に行い、その分析方法を検証することによって、この本の翻訳作業のみならず、文革関連の文学作品に関する先行研究に対する批判的な検討・理解を推し進め、本研究の理論的な推進力の根拠とすることを目指す。 具体的な翻訳作業の分担予定は、「第六章 海外華文小説中的“文革叙述”(海外の中国語小説における「文革の語り」)」 担当:今泉、「第七章 紅衛兵-知青的歴史命運:以《血色黄昏》為例(紅衛兵ー知識青年の歴史的運命:『血染めの黄昏』を例として)」担当:好並、「第八章 紅衛兵-知青的理想主義:《金牧場》与《金草地》(紅衛兵ー知識青年の理想主義:『金牧場』と『金草地』)」担当:阿部、「第九章 対“文革”的几種抗議姿態(「文革」に対するいくつかの抗議姿勢)」担当:阿部、となっている。2023年8月を目処に下訳を終え、その後は訳文を相互に確認、検討することで、当該書の先行研究としての意義および課題についてまとめる。
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次年度使用額が生じた理由 |
また研究分担者の1人が今年度は物品を必要としなかったため。使用計画については、研究分担者の1人が使わなかった今年度額については、次年度の研究代表者執行分に組み入れる計画である。
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