最終年度となる2023年度については、前年度同様に、同時代の演劇をめぐるメディア環境を歴史的に考察しながら記録する試みとして、日本で最も歴史ある演劇雑誌「演劇界」の休刊を機に、その内容を継続する雑誌メディアの存続に関わりつつ、劇界の日録単位の記録を残し続ける方策についての試案を連載継続した。これらの継続をも踏まえて、国立劇場再整備問題についての社会的発言に迫られる局面が多々あり、研究成果の社会還元の一端を果たした。 前年度に続いて林又一郎関係の映像コレクションの紹介、あるいは河竹黙阿弥没後130年を記念する展覧会に際しては、映像資料、音声資料等の調査と選択にあたって、研究成果を反映した。 また、国際的な比較にもとづく演劇とメディアの関係については、早稲田大学とバーミンガム大学との連携によって親交を得た、世界的に著名なシェイクスピア研究者のティファニー・スタン氏と、ZOOMを利用した同時通訳付きの対談を行うことができた。双方ともにきわめて有益な対談で、今後の継続的な展開を期待できるが、対面での対談以上に手持ちの資料を提示しながらの即興的な対話が可能であることを確認した。いずれ、映像資料や音声資料を提示しての研究的対話も可能となる手応えを得た。 映像資料と音声資料のデジタル化にもとづく、今後の展開としては、海外での歌舞伎上演等への手がかりを得たことを記しておく。英語歌舞伎の日本上演に関わる過程で、海外(とくにアメリカの大学、および在米日系人社会)での歌舞伎上演および日本古典演劇上演研究の必要性を知り、国内での演劇メディア研究の方法と成果が応用可能であるとの手応えをも得ることができた。
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